河合優実×細田佳央太だから成立した濃密な愛の形 『あんぱん』で噛みしめる“娯楽”の醍醐味
第30話で、のぶは慰問袋を戦地に送る活動をはじめ、それによってにわかに「愛国のかがみ」となる。豪と蘭子の恋が戦争で引きか裂かれる瞬間を目の当たりにし、戦地の兵隊さんへの思いが強くなったのぶにとって、東京で自由を謳歌している嵩(北村匠海)が我慢ならない。電話口で「たっすいがーのどあほ!」と怒鳴ってしまう。
それを見て(聞いて?)いた千尋(中沢元紀)と千代子(戸田菜穂)はのぶが「正しい」とのぶの味方になる。彼らもいまはお国のために一丸となるべきと思っているのだろう。だから、お国のために直接役立つるわけではない芸術をやっている嵩に疑問を感じるのだと思う。
この流れ、コロナ禍で、映画や演劇やコンサートが「不要不急」と言われたことと、筆者は重ねてしまった。
のぶや千尋や千代子は、嵩のやっていることを「不要不急」と思っている。でも、嵩は、銀座の街にあふれているファッションや文化に「自由」を感じ、それを大事に思っている。
のぶと嵩、どっちが正しい? 視聴者の皆さんはどう思うだろう。
そこで、第6週のサブタイトル「くるしむのか愛するのか」を補助線にしてみよう。正しい正しくないで分けるのではなく、お国のために苦しむことを選択するのか、自分が愛するものを優先するのか、そんなふうに考えてみたらどうだろうか。
第30話、蘭子と豪の視線を丁寧にすくいあげたカットの数々。夜汽車のなかで寄り添って眠る蘭子と豪の、昭和の映画を思わせる上品なショット(映画監督もやっている若手・野口雄大演出)。
こういうのが堪能できるのは、芸術あるいは娯楽があるからなのだ。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK