人はなぜ危ない男との泥沼恋愛にハマるのか 不倫やDV描く問題作『魔物(마물)』から考える

「クズ男」だからこそ満たしてくれる欲望

 そもそもの優しい男とクズ男との根本的な差を考えてみると、それはある程度の強引さや程よい自己中心性を備えているかどうかにあると言えるだろう。今作の凍也を見ていて思い出した言葉がある。エドワード・ヤン監督の映画『カップルズ』(1996年)で何度も出てきた「人は指図されたいんだ。指図を求めている」「人に指図をしてみろ。感謝されるぞ」といったセリフたちだ。これは劇中で台湾の大金持ちや成金社長からの教えとして反復される言葉なのだが、現代においても誰かに何かを選んでもらいたいという人間の欲望がはっきりと存在していることを思えば、確かに1つの真実だと言える。例えば、TikTokやX(旧Twitter)のおすすめ機能などはそういった欲望を見事に満たしてくれている。人生は選択の連続故に、何気なくとも人が何かを選択するという行動は思っているよりもカロリーを消費する行為なのだろう。

 そう考えると、あやめ自身、凍也にゾッコンになってからは「今までの恋は始まる時も終わる時も曖昧で、また会ったりもする」と言い始める始末。「聞いてないよ。そんなこと」という感じではあったが、こと恋愛において彼女は特別に男性を尊重するわけでもなく、仕事が最優先でもあるからこそ、そもそも決断を割と相手に委ねるタイプなのかもしれない。そして、そんなあやめにとって凍也とは、クズ男ではありつつ多少強引にでも彼女の手をわがままに引っ張ってどこかへ導いてくれる存在なのだ。もし、いちいち許可をとるし、なんでも許してくれるような優しい男と、予測不能で危険な匂いのするクズ男がいるとして、あやめの心に火をつけられるのは、未知の世界を見せてくれるような好奇心を刺激する後者である。

 さらに、DVとは暴力という罰によってルールと決定権を握られる行為とも言える分、もちろんそれは決して褒められたものではないのだが、そこに愛があるとするならば離れられなくなることもあるのかもしれない。実際に、凍也の妻である源夏音(北香那)がそうである。

 そして、この恋が燃え上がる上で最も大切なことは、まさにその不倫関係にあるのだろう。まずもって、夏音はあやめが独身であることを第1話の序盤から執拗に煽り続けていたこともあり、あやめからすれば凍也とは「ムカつくし軽蔑している女の旦那」でもあるのだ。そんな復讐心と、さらにほかの誰かの男を手に入れるという優越感があやめのブレーキを壊してしまったのだろう。飲食店などで当たり前に考えても、行列ができる店はその行列がますます人を呼ぶのだから、モテる男がモテるというように、誰にも相手にされてない人よりも他の誰かに好かれている人が魅力的に見えるということ自体は、男女や性別には関係のない、ただの人間心理ではある。

 それでも、人のものを取るということは、順番抜かしの食い逃げと同じなのでダメに決まっている。読んで字のごとく不倫とは、人として最悪最低な行為だと筆者は考えている。こちらももちろん擁護のしようが全くない。そんな不倫、DV、殺人と何一つ許されない行為に塗れた、まさに禁断の問題作。それでも、こうしてあやめは凍也にまんまと恋をしてしまったのだ。しかも、第3話のラストでついに牙を剥いたのが「魔物」の暴力である。ここからが地獄の始まりである注目の第4話。この恋はどこまで怒涛の沼に落ちていくのか。そして、どのようにしてあやめは“あの結末”を迎えるのか。

魔物(마물)

テレビ朝日が、韓国のスタジオ・SLLとタッグを組んで送る日韓共同制作オリジナルドラマ。不倫、DV、セックスなど愛と欲望にまつわる過激なテーマを掲げたラブサスペンス。麻生久美子と塩野瑛久が初共演にして濃厚なシーンに臨む。

■放送情報
『魔物(마물)』
テレビ朝日系にて、毎週木曜23:15~24:15放送
出演:麻生久美子、塩野瑛久、北香那、神野三鈴、佐野史郎、大倉孝二、落合モトキ、宮本茉由、宮崎吐夢、うらじぬの、若林時英
原案:シン・ウニョン
脚本:関えり香
監督:チン・ヒョク、瀧悠輔、二宮崇
音楽:jizue
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)、パク・ジュンソ(SLL)
ゼネラルプロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、チェ・へウォン(SLL)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、イム・チョヒ(SLL)、河野美里(ホリプロ)
制作著作:テレビ朝日・SLL 
制作協力:ホリプロ
©テレビ朝日・SLL
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/mamono/
公式X(旧Twitter):https://x.com/mamono_tvasahi/
公式Instagram:https://www.instagram.com/mamono_tvasahi/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@mamono_tvasahi/

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