『あなたを奪ったその日から』偽装母娘の同居生活が始まる 対比を通して浮かび上がる主題

 結城にスポットライトを当てる中で、結城家をとりまく状況も明らかになった。家を出た江身子はスナックで働いている。家族をかえりみない結城に、長女の梨々子(平祐奈)は不満を隠さない。梨々子には、親の不仲を見て育った子ども特有の満たされなさがあるように思われる。玖村にしつこく絡むのも、寂しさのあらわれかもしれない。梨々子がひねくれてしまったのは、結城にも原因がありそうだ。結城は独特の冷淡さがあって、家族に対してさえ握った手を放してしまうような、どこか無関心で醒めたたたずまいが気にかかる。

 そんな結城に対しても、萌子はちゃんと父親だと認識している。紘海と萌子はかくれんぼゲームの共犯者になる。紘海は風邪を引いた萌子の面倒を見たり、食事を作ったりすることで情が移るが、我が子に対してするように人の子を世話することで、皮肉にも親元に返すべきという考えに至る。正気に返った紘海だったが、犯罪を思いとどまることをためらわせたのもまた、紘海の中にある母親の本能だった。

 登場人物それぞれがかくれんぼをしていると感じる。他人の目だけではなく、自分の本心から、相手の気持ちから、また、見なくてはならない現実からも。きっとかくれんぼをすることで、心の中にぽっかり空いた欠落を必死に埋めようとしているのだろう。

 「親というのは悲しい生き物」という紘海のモノローグ。どんな親も初めから親だったわけではない。親になろうとして、でもうまくなれなくて、他人みたいな何を考えているかわからない我が子をなんとかして愛そうとして、そうやって一歩ずつ親になってきたのだ。親が注いでくれた愛情は無償のものではなくて、我が身を削るように振り絞った一滴、一滴が心を潤して自分を作ってくれたのだと、本作を観てそう感じた。

あなたを奪ったその日から

サスペンスフルなストーリーの中で生まれる親子愛を描く物語。『アルジャーノンに花束を』(TBS系)、『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)の池田奈津子が脚本を手がける。

■放送情報
『あなたを奪ったその日から』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~22:54放送
出演:北川景子、仁村紗和、平祐奈、阿部亮平(Snow Man)、水澤紳吾、小川李奈、一色香澄、田山由起、内藤秀一郎、原日出子、鶴田真由、大浦龍宇一、中原丈雄、筒井道隆、大森南朋
脚本:池田奈津子
演出:松木創
企画:水野綾子
音楽:村松崇継
主題歌:back number「ブルーアンバー」(ユニバーサル シグマ)
プロデューサー:三方祐人
制作:カンテレ、共同テレビ
©︎カンテレ
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