阿部寛は東日本大震災の痛みとどう向き合ったのか? ドラマを超えた撮影現場での衝撃
NHK土曜ドラマ『水平線のうた』の取材会が2月3日に開かれ、主演の阿部寛と制作統括の杉田浩光が登壇した。
3月1日、8日の2週連続で放送となる本作は、作曲家・岩代太郎が原案・音楽を担当し、『ゴールド・ボーイ』『ぼくが生きてる、ふたつの世界』などの港岳彦が脚本を、『前科者』『正欲』などの岸善幸が演出を担当したヒューマンドラマ。宮城県石巻市と女川町を舞台に、“音楽を通して愛しい人の思いを繋ごうとする”主人公たちの姿を描く。
東日本大震災からもうすぐ14年が経とうとしている。杉田は、現地の人たちに取材をしていく中で、「まだ終わっていない」ということを改めて実感したという。「まだ会えるんじゃないかと期待をして、ずっと待ち続けている人がいます。賢次という役も、家族に1日も早く会いたいと思っている、そんな物語です」と杉田は作品を説明。さらに音楽家の岩代太郎の企画でもあり、音楽が奇跡を起こす物語でもあると触れた。
その賢次を演じるのが、阿部寛。東日本大震災で妻と娘を失うが、震災で亡くなった人の霊がタクシーに乗るという話を知り、妻子に会いたい一心からタクシー運転手に転職。いまだ会えずにいる。阿部は脚本を読んで、「正直、めそめそしすぎじゃないかと思ったんですよね」と打ち明ける。泣くシーンの多い賢次という役に、疑問を抱き、演出の岸善幸に相談したという。阿部の中では悲しみを堪えている姿の方が、観ている視聴者は心が動くのではないかと考えていたからだ。
しかし、被災地では13年が経つ今でも震災を経験した大人はその悲しみをずっと忘れることができずに、震災の記憶のない子供たちや震災後に生まれた子供たちは普通に生きていきたいけれど、常に大人たちの重い空気の中で育ち、前を向くことができずにいるという。「それを聞いた時に、僕の役はそういうことを忘れられずにずっと苦しんでいる姿を若い世代に見せてしまっている、そういうことの表現の一つなんだと理解しました」と涙するシーンに臨んだと明かした。
本作では、妻子との思い出の曲を口ずさむ少女・りら(白鳥玉季)が登場する。「若い世代が大人たちに対してどう思っているかという目線は、今回のドラマで僕は新鮮に感じました」と若い世代の視点からも震災が語られることもポイントにあると、阿部はコメントする。