『べらぼう』“地獄”の日々を変えた蔦重の本作り “籠の中”で生きる若者たちが持つ大きな力

「なんかすげぇ楽しかったな。やることは山のようにあって、寝る間もねぇくらいだったけど。大変なのに楽しいだけって……こんな楽しいこと世の中にあって。俺の人生にあったんだって! なんかもう夢の中にいるみてぇだ」

 その「楽しいこと」とは、多くの人と力を合わせて何かを作ることもそうだが、この仕事で何かが変わるという手応えのことを言っているように思えた。何も変わることのないと思っていた人生。自分の力ではどうすることもできないと思っていた世界。だが、工夫を続けていけば、その中に「これだ」と思える光が見えることがある。

 そして半月後、吉原には新規の客がどっさどっさと集まってくる。そのたしかな変化に、もはや蔦重の能力を抱え込むことなどできないと駿河屋も悟ったようだった。だが、光が当たるところには必ず影がさすもので。駿河屋に代わって、もともと『吉原細見』を販売していた鱗形屋(片岡愛之助)が今度は蔦重に対して「かわいさ余って憎さ百倍」の眼差しを向ける。師と弟子のような関係だった2人が、同じ土俵に立つライバルに。そんな戦いも始まりそうだ。

 一方、蔦重の噂を耳にしながら意次も政治の世界で新たな動きを見せていた。御三卿のひとつ田安徳川家の後継者である田安賢丸(寺田心)の陸奥白河藩への養子入れ問題。10代将軍・徳川家治(眞島秀和)に優秀な賢丸が部屋住みとして、その才覚を発揮する機会が訪れないのは実にもったいないと説得するのだ。

 ここにもまた、大人たちによって作られた籠の中で生きることを強いられる若者がいたとも言える。そして、この賢丸はのちに「寛政の改革」で有名な松平定信となる。意次の失脚後に11代将軍・家斉の命で老中となる人物だ。次世代を思い通りに動かそうとするほどに、その不満を吹き飛ばそうと大きな力を発揮される。そんな運命のいたずらと呼びたくなる、不思議な縁が紡ぐ物語を楽しむことができるのも大河ドラマの魅力だ。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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