劇場版『進撃の巨人』で際立つハンジの“最期” エルヴィンからアルミンへ渡る団長の遺志
TVアニメ『「進撃の巨人」The Final Season 完結編』の集大成として、従来の映像に磨きをかけ、5.1chサラウンドによる圧倒的な音響体験とともに、144分の大作として生まれ変わった『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTACK』。人類の運命を賭けた最後の戦い、そしてエレンたちの壮大な物語はここに収束する。
本作で際立つのが、ハンジとアルミンの“団長”としての生き様だ。調査兵団の3人の団長たちには、共通して真実を追い求める強い意志があった。
海の向こうに広がる未知の世界に胸を躍らせるアルミン。巨人の生態を語るとき、子どものように好奇心で目を輝かせるハンジ。この世界の真実に執着し続け、その探求のために心臓を捧げたエルヴィン。
彼らは皆、「知りたい」という純粋な願いを胸に、仲間たちと共に未踏の領域へと足を踏み出していく。壁の中の過酷な現実と向き合いながらも、希望を語り続ける彼らの姿は、隊員たちにとっても、物語を見守る私たちにとっても、暗闇を照らす一筋の光のように眩しく映る。
調査兵団団長のアイコン的な存在として、その光を鮮烈に放ったのが、調査兵団第13代団長エルヴィンだ。TVアニメ第53話、獣の巨人への決死の突撃直前。エルヴィンは断固とした決意を込めて叫ぶ。「我々はここで死に次の生者に意味を託す! それこそ唯一! この残酷な世界に抗う術なのだ」。自身の戦略が兵士たちの死を意味することを知りながらも、エルヴィンは揺るがない信念を持っていた。大切な仲間の命、そして自らの命さえも代償として、人類の未来を切り拓くことこそが最優先すべき使命だと。
私利私欲か、それとも大義か。エルヴィンは、最後のギリギリまで自身の個人的な夢である「地下室」への未練を断ち切れない葛藤の深さを見せ、人類を救うために仲間を犠牲にした。完璧な判断を下す理想的な指導者ではなく、苦悩の末にリヴァイの後押しを受けて決断を下す。その人間らしい弱さと、それでも最後に正しい選択をする強さの共存こそが、エルヴィンという人物の比類なき魅力なのだ。
ウォールマリア奪還作戦を経て、調査兵団の舵取りは新団長ハンジの手に委ねられることとなった。物語の序盤から、巨人を目にすると目を輝かせ、時に周囲を戸惑わせるほどの情熱で研究に打ち込んできたハンジ。一見するとやや危うい「巨人オタク」にも見えるが、「虐殺は駄目だ! これを肯定する理由があってたまるか!」という言葉に表れるように、調査兵団には珍しいほどの揺るぎない倫理観を併せ持つ一面も。この“ギャップ”に満ちた人物像こそが、多くのファンを魅了してきた理由なのかもしれない。
そして、リーダーとしての覚悟と資質は、物語が最終章を迎え、残酷さを増すにつれて一層際立っていく。その全てが凝縮されたのが、ハンジの最期の瞬間だ。迫り来る地鳴らしの脅威の中、仲間たちの命を守るため、巨大な壁の巨人に向かって躊躇なく飛び込んでいく姿は、もはや涙なしでは観られない。迫ってくる巨人の大群を見下ろすように発した「やっぱり巨人って素晴らしいな」という言葉は、なんともハンジらしい一方で、そこには巨人の力を宿すエルディア人への深い敬意も込められていたとも捉えられるのではないか。
調査兵団団長に求められる資質は、理解することをあきらめない姿勢にある
人類を愛するハンジがアルミンへ団長を継承する際に残したこの言葉。最終章のラストでは、団長になぜアルミンが選ばれたのか、その理由が鮮やかに見えてくる。
物語の始まりから、類まれな頭脳と判断力で幾度となく調査兵団を窮地から救い出してきたアルミン。憲兵団との交渉でエレンの命を救い、トロスト区の戦いでは意識を失ったエレンを目覚めさせ、人類の希望を守り抜いた。彼なしには調査兵団も、壁の中の人類も、早々に絶命していただろう。