『ライオンの隠れ家』が現代人に問いかけた“共生”の形 “洸人の再生”が最後のピースに
『ライオンの隠れ家』(TBS系)第10話が見せた、洸人(柳楽優弥)と祥吾(向井理)の対決シーンは、このドラマの要素のひとつである「家族をめぐる『ヒューマンサスペンス』」のクライマックスと言えるだろう。
愛生(尾野真千子)に暴力をふるい縛りつけて監禁し、ライオン/愁人(佐藤大空)を連れ出して、おそらく心中しようとしていた祥吾を、洸人が駆けつけて止めた。このときの洸人と祥吾のやりとりは、対決の様相を呈していながらも、その実「自分自身との対話」になっていた。
祥吾「僕はずっと家族のためだけに生きてきたんだ。そのために……そのために全部やってきた。あなたには到底わからない」
洸人「わかりたくないですよ! わかりたくないのに、きっと僕も同じ間違いをしているのかもしれません。相手のため、そう言いながら結局は自分のために相手を縛って。家族だから、家族だからって」
心優しき洸人と、DV夫の祥吾。一見真逆のようで実はこの2人、共に「よかれと思って」の押し付け、ボタンの掛け違いを起こしてしまっている。
両親を事故で失い、自閉スペクトラム症の弟・美路人(坂東龍汰)と2人暮らし。洸人の生活の中心にあるのは美路人のケアで、このまま凪のように平穏で何も起こらない生活がいちばんいいのだと、自分に言い聞かせて生きてきた。ライオンが来るまでは。ライオンという小さな愛すべき侵入者の登場は、洸人と美路人の「変わらない毎日」に風穴を開けた。ライオンの影響で少しずつ変化し、成長していく美路人を目の当たりにしながら洸人は、「僕がいなければみっくんは何もできない」と思い込んで、かえって美路人を狭い世界に閉じ込めていたのだと気づかされる。
天涯孤独で血のつながった家族のいなかった祥吾は、橘家の養子に入り、家業のために身を粉にして働いてきた。国会議員の亀ヶ谷(岩谷健司)と「たちばな都市建設」が共謀して犯した殺害事件の片棒まで担いだ。そうまですることでしか一族の中での自分の立場と、家族の生活を守ることができなかった。そのジレンマが彼をDVに走らせてしまった。しかし、洸人に向かって「僕は、別に今だってただ、この子を愛……」と言いかけたとき、ライオンの泣き顔を見て、「この子を愛するどころか、ただ苦しめている」「愁人(ライオン)は自分の所有物ではない」と祥吾は悟った。それを言葉にせず、表情で語っていた。
洸人と祥吾は、共にライオンの存在によって「真実」に気づかされたのだ。このドラマの主要登場人物は皆、長いあいだ本音を心の奥底にしまい込んで生きていた。そしてそれは、人間の多義性と多面性を描き出していた。「お人好しの善人」だけが洸人ではない。「自閉スペクトラム症」だけが美路人ではない。「身勝手な礼儀知らず」だけが愛生ではない。
洸人と祥吾だけでなく、美路人も、そして愛生も、ライオンの存在によって自分の中にある本来の欲求、本当の気持ちに気づかされていった。
イレギュラーな出来事がいちばん苦手で、少しでも変わったことが起こればパニックを起こしてしまう美路人は、予測不能なことばかり巻き起こすライオンと共に暮らすことでだんだんと「変化」に対応できるようになっていく。第10話では自らの意志でアトリエ合宿のプレ体験会に参加し、初めて家族以外の他者と1泊の共同生活にチャレンジした。デザイン会社「プラネットイレブン」の同僚である小野寺(森優作)から「いつかはみんな1人になりますよ」と言われてハッとした美路人は、自立への第一歩を歩み始めた。そして美路人の成長は、これまで自分の世界も、自由な時間も持たずに生きてきた洸人の背中をそっと押すのだった。