『若草物語』視聴者の価値観を映し出すラストに 涼が“最高の友人”と迎えたハッピーエンド
最終回を観た視聴者の反応は、きっとさまざまに分かれただろう。律との関係が「友情」という形で決着したことに物足りなさを感じた人もいれば、自分の信念を貫いた涼の強さに心を打たれた人もいるはずだ。ただ、「律との友情がない生き方は私には考えられない」という涼の言葉は、視聴者全てに問いかけていたのではないだろうか。あなたにとっての「大切な関係」とは何なのか、と。
本作は決して恋愛を否定する物語ではない。恵も衿も、あえて意地悪な言い方をすれば“既製品のレシピ”を選んで幸せを掴んだ。しかし既製品であろうと、その先の道のりには様々な試練が待ち受けているだろう。
若草物語の放送を姉妹全員で見守るラストシーンは、この物語の解釈を視聴者一人ひとりに委ねているかのようだった。衿や恵の視点で見るか、芽(畑芽育)の目線で追体験するか、あるいは涼の立場で考えるか。誰に感情移入をするかによって、今の自分自身の生き方を振り返るきっかけにもなるのだ。
多様性が叫ばれる現代においても、私たちの社会は依然として恋愛至上主義の色合いが濃い。友情や他の絆よりも、恋愛関係が美しく、優先すべきものとして描かれることが多い。誰もが一度は経験したことがあるのではないだろうか。恋人ができた友人や、結婚して新しい家族を持った友人との距離が、自然と遠のいていく感覚を。
それ自体を否定する必要は全くないが、恋愛と同じように大切な友情や、異なる形の絆があってもいいはずだ。恋愛、友情、家族。人は時に無意識のうちに、人と人との関係性にラベルを貼り、そのラベルによって親密さや大切さの序列を決めてしまう。「恋人になれば、より特別な関係になれる」「結婚すれば、もっと大切な存在になれる」。そんな暗黙の価値観が社会には根付いている。涼はそういった考え方に、どこか違和感を抱いていたのだろう。だからこそ、律のプロポーズを受け入れることができなかったのかもしれない。
涼にとっての律は、世間一般で言う「結婚相手」という枠に収めてしまうには惜しすぎる、もっと自由で特別な存在だったのだろう。「友達」という関係は、涼の中で決して恋愛の予備軍でも、結婚への踏み台でもない。むしろ、そのままの形で完成された、独立した関係性なのだ。恋愛とは異なるが、決して格下ではない。むしろ涼にとっては、どんな関係よりも大切で、かけがえのない絆だったのかもしれない。
『若草物語』を観た後に街に出ても、世界は何も変わらない。涼が言っていた通り、電車に乗ろうものなら、脱毛サロンの広告が「体の毛を抜け」と迫り、婚活サービスの広告は「早く結婚しなさい」と語りかけてくる。社会からの「べき」は相変わらずだ。でも、それに従うかどうかは自分次第なのだ。世間の「当たり前」に縛られることなく、自分らしい形で幸せのレシピを紡いでいけばいい。ちょうど涼が、“最高の友人”とハッピーエンドを迎えたように。
■配信情報
『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』
TVer、Huluにて配信中
出演:堀田真由、仁村紗和、畑芽育、長濱ねる、一ノ瀬颯、深田竜生、生瀬勝久、臼田あさ美、渡辺大知、坂井真紀、筒井真理子ほか
原案:ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』
脚本:松島瑠璃子
音楽:はらかなこ
演出:猪股隆一、瀬野尾一
プロデューサー:森有紗、松山雅則
協力プロデューサー:河野英裕
チーフプロデューサー:松本京子
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/wakakusa/