北村有起哉&緒形直人の矜持と覚悟 『おむすび』が正面から向き合った“食べて生きる”こと
しっかり悲しみ、しっかり辛い顔をしている孝雄には、まだ生きるエネルギーという熾火が残っているのだろう。そうでなければそんな顔もきっとできない。娘のいないこの世界に生きる意味がないと思いながら身体は生き続けている。だからこそ聖人は孝雄に手を差し伸べるのだ。
結は、こども防災訓練にやって来た孝雄にわかめおむすびを差し出す。孝雄はそれを食べる。
生きる希望がないのに生きていくしかないという飲み込みにくい事実を飲み込むしかない。食べて美味しかったとハッピーエンドではないのだ。それを、この週の演出を担当した小野見知はこう解釈している。
「生きていくということを、おむすびと共に、彼自身が飲み込む瞬間の演技には鳥肌が立ちました。あの日は本当に暑かったのですけど、それを全部忘れるくらいでした。孝雄は、いつ死んだっていい、本当に死ねるなら死にたいと思いながら、ずっと生きてきたかただと思うので、亡くなった娘・真紀に対してごめんねと思いながら、ひと口を食べるようにも見えました」(※2)
できることなら何もしないで娘のもとにいきたいくらいなのだろうけれど、それもできず、出されたおむすびを食べることで、生きることを孝雄は選んだ瞬間なのだと思う。食べることは生きること、とは『ごちそうさん』(2013年度後期)でも語られていた。食事は美味しくて嬉しいこともあるが、ときには美味しくないこともある。それでも食べて生きるしかない。
幼い結はあの日、冷たいおむすびやかたいおむすびを食べた。これは生きるしかないこの世界の厳しさを幼くして結が味わったという、じつにハードボイルドな表現なのではないだろうか。
参照
※1 https://realsound.jp/movie/2024/12/post-1859900.html
※2 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c77f7a7e97d6e463556e6fa6e849a5a243a5a2c4
■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK