『虎に翼』『新宿野戦病院』『嘘解きレトリック』 “癖の強い役”で真価を発揮する余貴美子

 『嘘解きレトリック』(フジテレビ系/2024年)第9話に余貴美子がゲスト出演する。余といえば、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期)での好演、いや妙演が注目を集めたばかり。これまでもどこにでもいる至って普通の母親役から、ミステリアスで個性的な女性まで、幅広い役を演じてきた余だが、2024年の出演作を振り返ってみても、一度見たら忘れられない癖のある登場人物を演じてきた。それだけに『嘘解きレトリック』でも、ユニークな演技を見せてくれるのではないかと密かに期待している。

 もはや説明不要なのは重々承知しているが、余の俳優としてのキャリアはオンシアター自由劇場から始まった。リリー役を演じた斎藤憐の戯曲『上海バンスキング』は余の代表作となり、舞台俳優として活躍。オンシアター自由劇場を退団後に大谷亮介らと東京壱組を旗揚げしたのを皮切りに、舞台から映画やテレビドラマにも足を延ばした余は、映画『おくりびと』(2008年)や映画『ディア・ドクター』(2009年)、映画『あなたへ』(2012年)といった作品で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞し、名脇役として映像の世界では欠かせない存在となった。

 『悪人』(2010年)や『ツレがうつになりまして。』(2011年)など、多くの母親役を演じてきた余だが、筆者が特に胸を打たれたのは、Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』(2023年)だ。借金・暴力・家庭崩壊と人生崖っぷちで荒くれ者の新人力士・猿桜こと小瀬清(一ノ瀬ワタル)が相撲界で成長していく過程を描いた同作で、余は主人公の母親・早苗を演じた。その登場シーンがかなり衝撃的。それはもう借金を踏み倒し、彼氏との遊びに明け暮れる自由奔放で怠惰な母親の姿。口も悪いし、態度も大きい。かつてないほどの強烈な母親像に釘付けになった。

 2024年に放送された『新宿野戦病院』(フジテレビ系)でのリツコ・ニシ・フリーマンは、そんな余にしか出せない役柄だった。元アメリカ軍医のヨウコ・ニシ・フリーマンの実の母で、ジャズシンガーという経歴を持つ彼女は、見た目からかなりファンキー。本作ではかなり個性的でトリッキーなキャラクターばかりが登場するが、リツコは本作の象徴的な人物だ。言い方はあまり良くないかもしれないが、とにかくぶっ飛んでいる。破天荒で物語をかき乱していくリツコを余は自制しつつも、余裕たっぷりに演じていた。

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