『宙わたる教室』あまりにも切ない“空中分解” 窪田正孝が“研究者”から“先生”の眼差しに
宇宙から地球に飛来する物質のうち、大気圏で燃え尽きずに地上に到達したものを隕石(メテオライト)と呼ぶ。そのほとんどは実害をもたらさない小さな石のかけらだが、なかには恐竜を絶滅させたとされる小惑星のような威力を持つものもある。
『宙わたる教室』(NHK総合)第8話で、定時制科学部に突如降ってきた隕石は後者だった。それは凄まじい威力で科学部を空中分解させる。
学会発表のエントリー締め切りまであと1カ月に迫り、部員に焦りが見え始めていた頃だった。なかでも、周りが見えなくなるほどに実験に没頭していたのが岳人(小林虎之介)だ。夜遅くまで実験装置の改良に取り組み、仕事の休憩中も彼が手にするのは、タバコではなく教科書の読み上げアプリが入ったタブレット。それだけではなく、読み書きのトレーニングにも熱心に励む岳人の向上心には驚かされるばかりだ。
子供の頃から読み書きが苦手なことでさんざんバカにされてた岳人だが、大人になってからの出会いには恵まれていたほうだと思う。もちろん、働いている会社にも定時制に通っていることをからかってくる人もいるが、武井(足立智充)のように温かく見守ってくれる先輩もいる。何より藤竹(窪田正孝)という恩師と呼べる存在に出会い、同じ目標に向かっていける仲間ができた。
いや、でもそれを「恵まれている」の一言で片付けるのはおかしいかもしれない。たしかに端から諦めてきたこともたくさんあるし、麻薬の売買に関わっている仲間とつるんではいたが、岳人は完全に自分に見切りをつけたわけではなかった。自動車免許を取得して仕事の幅を広げようと定時制に通い、 テストの計算問題で満点を取るくらい勉強を頑張っていたのだから。その一生懸命さが、何もかも諦めているようでいて、溢れ出る好奇心が、良い出会いを運んできたとも言える。
だけど、そういうところが不良仲間の孔太(仲野温)は気に食わないのだと思う。孔太の事情も2人の過去も知らないが、きっと彼は岳人に共鳴する部分があって友情も感じていたのだろう。その絆を証明するためにも、どこまでもどこまでも一緒に堕ちようとした。だけど、岳人が真面目に授業や部活に取り組むようになって、「俺とお前は違う」と線を引かれたような気がしたのではないか。だから、ムキになって同じ穴の狢ということを知らしめようとした孔太は、朴(阿佐辰美)が止めるのも聞かず、最近付き合い出した仲間と科学準備室に乱入し、実験装置を破壊する。
岳人はそんな孔太という引力に必死で抵抗しようとしたのかもしれない。実験を成功させて学会で発表するということが、きっと彼にとっては自分を大きく変えるチャンスだったのだ。しかし、これまで自由浮遊惑星のように何にも縛られず、ただ目の前の実験を楽しんでいた岳人は焦りと憤りで冷静さを失い、隕石となって他の天体と衝突する。もはや科学部という場所は、みんなにとって過酷な環境から身を守ってくれる“ハブ”、あるいは色んな重たさから解放される“無重力空間”ではなくなってしまった。
それを自業自得という言葉で岳人を責めることなど、これまでの彼の頑張りを見ていたら到底できない。この学校で諦めてきたものを取り戻そうとし、いつか大学に進学して研修者になれたらという夢まで描けるようになったのだ。だけど、長嶺(イッセー尾形)は藤竹に「私はそれなりに世の中のことは知っているつもりですが、想像以上に甘くないよ」と言う。それは以前のようにただ世間に厳しさを突きつけるものではなく、険しい道を進む岳人を心から案じる言葉だった。