『Mr.プランクトン』は1本の壮大なロードムービーのよう ウ・ドファンの“退廃美”に釘づけ

 Netflixで11月8日に全10話一挙配信された韓国ドラマ『Mr. プランクトン』は、ウ・ドファン×イ・ユミ×オ・ジョンセによる人生の旅路を描いたウェルメイドな感動作として観るものに深い余韻を残し、絶賛されている。本稿では最終話までの物語をまとめてご紹介したい。(以下、ネタバレあり)

 本作の主演を演じるウ・ドファンは、1992年7月12日生まれの32歳で、2011年デビュー後、『マッド・ドッグ~失われた愛を求めて~』『ザ・キング:永遠の君主』『私の国』『ブラッドハウンド』等、数々の作品に出演し人気を博している。本作では、脳の病による突然の余命宣告から、人生の旅路の途中に永遠の愛を渇望する姿を体現してみせた。

 物語は、ウ・ドファン演じるヘジョの最期の瞬間から始まる。雪原にひとりの人物の足跡と、真っ白な雪の上を染める赤い血、大の字であおむけになっている主人公ヘジョの「俺はもう死ぬ」というモノローグから、主人公が死の淵に立たされていることがわかる。観るものに緊張感を持って、この作品を見る強さと覚悟を問うような始まりだ。

 ヘジョには本名があった。彼の名前はチェ・スンヒョクといい、父の病のため、冷凍精子を使用した体外受精によって誕生し、両親の愛を一身に受けて育った。しかし、彼が8歳のときに、病院のミスによる冷凍精子の入れ間違えが判明し、父の実子でないことが発覚する。それにより一家は家族崩壊し、母は亡くなり、残された父と上手くいかなかったスンヒョクは高校生のときに家出をして、それ以降「ヘジョ」と名乗るようになった。そこからヘジョは、人殺しと人探し以外ならなんでも請け負う「便利家(便利屋)」として暮らすようになる。そんなある日、脳の病気で余命3カ月を医師から告げられたヘジョは、元カノであるジェミ(イ・ユミ)を結婚式直前に拉致し、彼女を連れて、精子の提供者である実の父を探す旅に出る。そんなふたりを追う暴力団や、ジェミの婚約者である名家の息子オ・フン(オ・ジョンセ)とともに、ヘジョの命の最期まで旅を続け、愛を探すロードムービーのようなドラマなのだ。

 子どもが欲しかった父から溺愛されて育ったスンヒョクが、ヘジョとなるまでの悲しい過程に心が痛くなる。仲の良かった家族が、血の繋がりがないということが発覚した途端、空中分解されてしまう切なさ、寄る辺のなくなったスンヒョクは、自分の名前も過去も全てを棄てて「ヘジョ」として、根無し草のような生き方をしている。

 そんな根無し草のようなヘジョに対し、フンの家は500年続く名家で、“根無し草は下衆だ!”という家訓のような、標語のようなものが飾ってある。このヘジョとフンの対比に加えて、親の愛を知らないジェミと、親はいるが永遠の愛を渇望するヘジョと、親の愛と名家のプレッシャーに潰れそうなフンという三者三様のキャラクターのそれぞれが、旅を通じて過去と対峙し、向き合っていくさまに何度も涙腺が刺激され、感情を揺さぶられる。

 本作は、ヘジョの衝撃的な姿から始まり、時系列がバラバラに展開していき、過去に何があったのかが明かされていく中で、恋人たちの愛の軌跡や、怒り、涙、笑いと仲間たちとの愛情が描かれ、感情の渦に巻き込まれていく。ウ・ドファンがこれまでの作品で見たことのない危うげな雰囲気を纏い、「退廃美」を体現していたのが圧巻だった。特に、最後にヘジョがスンヒョクに戻る父との場面には号泣させられた。それほど本作でのウ・ドファンは素晴らしく、本作が彼の代表作となるのは間違いない。

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