ジョン・レノンはなぜ特別な存在になったのか みのミュージックが語る“知られざる素顔”

ジョン・レノンから学んだ「安全圏から一歩踏み出す勇気」

――『ソングブック』では、ビートルズ解散後のジョンとポールのソングライティングや活動の違いにも焦点を当てています。仲違いしたジョンとポールは、メイ・パンやヨーコの働きもあって1970年代半ばには和解しセッションなども行っている。そのあたりのことを、みのさんはどう思っていますか?

みの:ビートルズの解散は、皮肉にもジョンにとって制作面での大きなインスピレーションになったんじゃないかなと。ビートルズの解散やメンバー間のゴタゴタで疲弊し、そこから回復に向かう過程で生まれた「Instant Karma!」や『ジョンの魂』は傑作です。

――後半2部は、映画『ジョン・レノン 失われた週末』で描かれている時期とも重なります。ヨーコがジョンに対して相当高圧的だった部分があったんじゃないかと感じたんですが、そこはどう見ていますか?

みの:あの2人の関係は一元的に捉えられないと思います。普通の物差しでは測れない、非常に型破りなカップルですしね(笑)。もちろん、ヨーコさんにも問題があった部分はあるでしょうけど。僕、ジョンがメイ・パンに向けて歌った「Surprise, Surprise(Sweet Bird Of Paradox)」(『心の壁、愛の橋』収録)が大好きなんですよ。でもやっぱり、オノ・ヨーコに捧げた曲と比べると、真剣度が全然違うんですよね。「Happiness Is A Warm Gun」や「I Want You (She’s So Heavy)」みたいな曲は、ヨーコがいなければ生まれなかった。どちらが良くて、どちらが悪いとはなかなかいえないですよね。ただ、だから、メイ・パンのような普通の人が、あんなにエキセントリックな人たちとの間で綱引きのような関係を続けるのは相当大変だったはず。

『ジョン・レノン 失われた週末(字幕版)』© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

──ジョンとヨーコが別居し、ジョンの秘書だったメイ・パンが「ヨーコ公認の恋人」になったというのも、すごい話ですよね。メイ・パンがもう耐えられなくてニューヨークに戻ったら、ヨーコが「今すぐロスに戻って」と命じた話などは、ちょっと理解し難い。

みの:ぶっ飛んだ話ですよね(笑)。ただ、ヨーコはヨーコで「自分はデヴィッド・スピノザと関係があった」みたいなことをジョンに言うんですよね。スピノザ本人は否定していましたけど。たぶん時代背景もあって、「ちょっと遊びたい」みたいな感じで、お互い自由恋愛の時期を作ろうとしたんじゃないかな。

――ヨーコとしては、ジョンが他の女性と遊び回るより、メイ・パンが盾になってくれた方が良いと判断したのかも。

みの:ひどい話ですよね。しかも最終的には、ヨーコが勝つっていう筋書きにして、メイやスピノザは復縁後の刺激剤にしたのかと思うと怖すぎる(笑)。

――本当に、メイ・パンの視点から見るとヨーコの行為はパワハラですよね。映画のエンドロールで、メイが親しかった亡きシンシア(ジョンの前妻)に対し「やっと真実を言える時が来た」とのメッセージを送っているのも印象的でした。「あなたが言えなかったことを、代わりに私が言ったよ」みたいな意味も込めていたのかもしれないですね。

みの:メイとシンシアが仲良くなるのは理解できますよね。境遇が似ていたから共感できる部分が多かったんじゃないかと思います。ジョンがより社交的になったのも、メイ・パンの影響が大きかったんじゃないかな。ただ、あの生活を続けていたら相当寿命が縮んだと思いますが(笑)。

――「ハリウッド・ヴァンパイアズ」と名乗って、夜な夜な遊び回っていた時期ですよね。

みの:半分くらいのメンバーが亡くなっちゃいましたよね。ハリー・ニルソンとかキース・ムーンもそうだし。アリス・クーパーは頑張っていますけどね。でも、実りの多い時期でもあったと思います。「失われた週末」と呼ばれていますが、実際には『Mind Games』や『Walls and Bridges』のような傑作が生まれているわけで。

『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック 1967-1972(字幕版)』© Chrome Dreams Media Ltd.2009

――『失われた週末』は、ジョンが荒れまくっていた時期だと思っていたけど、実際には素晴らしい作品が生まれていました。メイとジョンが住んでいたアパートには、デヴィッド・ボウイやエルトン・ジョン、ポールとリンダも遊びに来ていたみたいですし。

みの:デヴィッド・ボウイとは「Fame」で、エルトン・ジョンとは「Whatever Gets You Thru the Night」で共作し、ビルボードチャートでそれぞれ1位を獲得しているんですよね。商業的にも成功している。

『ジョン・レノン 失われた週末(字幕版)』© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

――だから、メイ・パンはマネージャーとしても結構優秀だったんだなって思います。ジョンより10歳くらい年下だったから、大変だったでしょうけど。

みの:例えば、政治に深く関わったかと思えば突然手を引くなど、ジョンはものすごく気まぐれなところがあるんですよね。とても多面的な人だから、接した人それぞれの印象や解釈があるのも理解できます。さっきも少し話しましたが、ジョンの生い立ちや性格を全部引き算して考えると、あの状況に耐えられる人はほとんどいないと思うんですよ。ずっと健康でいるポールは化け物みたいな人ですが(笑)、リンゴはアルコール依存症になったし、ジョージ・ハリスンも女性関係で相当悩んでいましたからね。ジョンが破滅的な方向に向かってしまったのも無理はない。とはいえフェミニズムの視点で見ると落第生だったしクズな部分もたくさんあった。

『ジョン・レノン 失われた週末(字幕版)』© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

――ウーマンリブの象徴的な存在だったヨーコと出会い、変わった部分もあれば変わり切れなかった部分もあったのかなと。

みの:ジョンは感情的になると暴力的な面が出たりして、それは間違いなく改善すべきだったと思う。でも一方で、ヨーコをあそこまで仕事に巻き込み、表舞台に立たせた姿勢はある意味進んでいた部分でもありますよね。だから、ジョンって本当に複雑な人物だと思います。現代の尺度で過去の人を批判し過ぎるのも、ちょっとどうなのかなと思う部分が個人的にはあるので。

――同感です。ジョンは壮絶な幼少期を過ごしました。お母さんをひどい形で亡くし、お父さんも蒸発してしまう。そういった経験が彼の人格形成に大きく影響したのは間違いなくて。自分の中で「父性」をどう扱ったらいいのかが分からず、それがジュリアンとの関係にも影響を与えていたのかもしれない。

みの:その通りだと僕も思います。ジュリアンとの良い関係をなかなか築けなかったのは、もちろんヨーコが会わせないように仕向けていたとはいえ、父親との関係が大きな影を落としていたのではないかと。でも、メイ・パンのおかげでジュリアンとの絆が再び繋がったというのは、ジョンの人生を振り返ったときに一つの救いになったんじゃないかな。それがなかったら、ジョンの一生はもっと悲しい結末になっていたかもしれません。

『ジョン・レノン 失われた週末(字幕版)』© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved

――今、みのさんが着ているジョンとジュリアンのTシャツも、そういう意味で胸が熱くなりますね。

みの:そうなんですよ、ジュリアンとジョンのツーショットって本当に珍しいんです。このTシャツ、ジョンの顔が大きくアップされていて、普通なら『ダブル・ファンタジー』のイメージが思い浮かぶかもしれませんが、このTシャツは父親としてのジョンがジュリアンと一緒に写っているので特別感がありますね。さらに、バックプリントにメイ・パンの顔が入っているバージョンのデザインもあって、僕はメイ・パンのファンなので個人的に嬉しいです。

――ジョン・レノンがみのさんにどんな影響を与えたか、最後に教えてもらえますか?

みの:ジョン・レノンから学んだことは「安全圏から一歩踏み出す勇気」ですね。リスクを取る瞬間が必要だと教えてくれた気がします。表現者として、そこに妥協しなかったことが彼の魅力だったんだと思います。僕自身も、表現する上でジョンからは大きな影響を受けました。なので、今回の映像作品を通してジョン・レノンの知られざる一面に光が当たることがすごく嬉しいです。僕が知る限り、こんな視点でジョンを掘り下げた作品は前代未聞だと思います。ビートルズの時代はもちろん、それ以降のジョンの活動や、そこで生まれた楽曲がもっと多くの人に聴かれることを願っています。

■放送・配信情報
特集「ジョン・レノン:知られざる素顔」
12月8日(日)より一挙放送・配信
放送情報:https://www.wowow.co.jp/special/022231
配信情報:https://wod.wowow.co.jp/browse/editorial/40793

・『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック 1957-1965』
12月8日(日)10:45~ほか
放送情報:https://www.wowow.co.jp/detail/201631
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/201631

・『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック 1966-1970』
12月8日(日)0:15~ほか
放送情報:https://www.wowow.co.jp/detail/201632
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/201632

・『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック 1967-1972』
12月8日(日)14:15~ほか
放送情報:https://www.wowow.co.jp/detail/201633
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/201633

・『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック 1973-1980』
12月8日(日)16:45~ほか
放送情報:https://www.wowow.co.jp/detail/201634
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/201634

・『ジョン・レノン 失われた週末』
12月8日(日)19:15~ほか
放送情報:https://www.wowow.co.jp/detail/201190
配信ページ:https://wod.wowow.co.jp/program/201190

■商品情報
『ジョン・レノン 失われた週末』 WOWOWオリジナルTシャツ
サイズ:M・L・XLサイズ(全種類共通)
価格:各5,720円(税込)
wowshop:https://wowshop.jp/

〈Tシャツのラインナップ〉
『ジョン・レノン 失われた週末』 WOWOWオリジナルTシャツ「Julian」ホワイト
『ジョン・レノン 失われた週末』 WOWOWオリジナルTシャツ「Julian」グレー
『ジョン・レノン 失われた週末』 WOWOWオリジナルTシャツ「motifs」ホワイト
『ジョン・レノン 失われた週末』 WOWOWオリジナルTシャツ「motifs」ブラック

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