『ライオンの隠れ家』は思わぬ景色を視聴者に届ける ヒューマン&サスペンスの見事な両立

 金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)は優しいドラマだ。第4話において、つかの間の安堵の中で床に転がり、欠伸をして涙が出た洸人(柳楽優弥)を見たライオン(佐藤大空)が「洸人泣いてるから」と洸人のお腹をトントンと優しく触り、美路人(坂東龍汰)もそれに加わる。

 それによって洸人の目から涙が本当に零れ落ちたと思ったら、すぐにライオンの「コチョコチョタイム」へと変わり、3人は楽しそうに笑いだす。この世の幸せを凝縮したかのような「同じプライド(群れ)の仲間」であるところの彼らの愛おしい時間は、そのまま壁に貼られた美路人とライオンが描いた「家族写真」のような絵が映し出されることで、そこに集約される。

 その絵は人の絵を描かない美路人がはじめて書いた「人の絵」であることから「3人で一緒にいることに意味が生まれてる」ことを証明する絵であり、同時にその「家族写真」のようなものは、そこに閉じ込められた幸せな時間が永遠ではないかもしれないということを示していたりもする。

 彼らの愛おしい日々が出来る限り長く続いてほしいという願いを込めて見守らずにはいられないドラマ『ライオンの隠れ家』は、優しい彼らの幸せな今の中に、彼らを愛した家族の思い出を詰め込みながら、ゆっくりと前に進んでいく。

 本作は、『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)や『おっさんずラブ』シリーズ(テレビ朝日系)の徳尾浩司、今作が連続ドラマデビュー作となる一戸慶乃が共同で脚本を手掛けたオリジナル脚本のヒューマンサスペンスドラマである。兄・洸人と自閉スペクトラム症の弟・美路人と、突然現れた「ライオン」を名乗る少年の共同生活を、寅吉(でんでん)や美央(斎藤飛鳥)をはじめとする彼らを愛する人々の姿とともに描くいわば「ヒューマン」パートは、柳楽優弥や坂東龍汰をはじめとする優れた俳優たちの好演も相まって、それだけで成立する見事さだ。

 かたや事件を追う楓(桜井ユキ)・悠真(尾崎匠海)の週刊誌記者コンビのポップな面白さ。岡山天音が演じる謎多き「X」や、情報をくれるカラオケスナックのママ・かすみ(入山法子)、意味深な役柄かと思いきや弱みを握られていただけだった刑事・快児(柿澤勇人)など実に多彩なキャラクターが入り乱れる「サスペンス」パートも、まるで違う味わいがある。さらにはキーパーソンである、ライオンの両親と思しき愛生と橘祥吾を、それぞれ尾野真千子と向井理が演じることで、作品により重厚感が生まれている。

 さらに、演出を手掛けるのは『妻、小学生になる』(TBS系)、『凪のお暇』(TBS系)の坪井敏雄をはじめ、青山貴洋、泉正英。例えば第1話冒頭の愛生(尾野真千子)とライオンが行き着いた山梨県笛乃川の不穏な光景が、晴れ渡った海と空、悠々と空を飛ぶ鳥のショットとともにガラリと変わり、洸人と美路人が暮らす茨木県浦尾市の、洸人が言うところの「凪」の光景に切り替わる時の鮮やかさ。さらにそれを川から海へ、続く小森家の朝の場面で、美路人がじっと見つめ触れる「水道の蛇口から流れる水」までをひとつながりと捉えると、それはどこか、動物の「命の色」を見ることができる「みっくんにしかない特別な感性」に由来するような、美路人が見つめる世界の姿に思いを馳せることすらできてしまう。

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