『小学校~それは小さな社会~』撮影地の世田谷区で上映 山崎エマ監督が思いを語る

 12月13日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開される『小学校〜それは小さな社会〜』が、第31回キネコ国際映画祭でキネコグランプリ・ドキュメンタリー部門を受賞した。

 イギリス人の父と日本人の母を持つ山崎エマが監督を務めた本作は、公立小学校で150日、のべ4,000時間の長期取材を実施したドキュメンタリー映画だ。山崎は公立小学校を卒業し、アメリカの大学へと進学。そこで、自身の“自分らしさ”は、日本で過ごした小学校時代に学んだ“規律と責任”に由来していることに気づく。学校での教室の掃除や給食の配膳などを子どもたち自身が行う国は少なく、日本式教育「TOKKATSU」は、海外で注目を集めている。日本人である私たちが当たり前にやっていることは、海外から見ると驚きに溢れており、小学校を知ることは、未来の日本を考えることだと投げかける。

 11月5日に行われた第31回キネコ国際映画祭クロージングセレモニーにて、キネコグランプリ・ドキュメンタリー部門を受賞した本作。11月2日には、取材先である世田谷区で上映が行われた。

 舞台挨拶に登壇した山崎監督は、「私は、大阪の公立小学校に通い、その後インターナショナルスクールで中高を過ごし、大学からニューヨークに移りました。海外で生活をしていく中で、どんどん日本人から、欧米人になっていった経緯があります。20代の頃、ニューヨークで仕事をしていると、『責任感が強い』『時間に正確』『チームワークに優れている』といったことを褒められることが多く、これは『日本人であること』に由来するのではないかと考えるようになりました。そこで、振り返ると、日本の小学校で学んだ6年間が自分の基礎であり、強さになっていると思いました。海外では日本文化といえば寿司や忍者、アニメといったものが広く知られていますが、日本のことを知るには日本の小学校を見るのがいいと思っています。日本の教育には食文化以外にも学ぶべきことが多いと思う中で、『小学校を舞台にした映画を作りたい』と思い始めたのは10年前のことです。しかし、公立小学校の生活を1年間にわたって撮影したいというのは要望が大きすぎたこともあり、『絶対できないよ』なんて何年も言われながら、結局30校ほど見た後に世田谷区の協力を得て、行事や委員会などの特別活動に力を入れている小学校での撮影が可能になりました」と映画制作に至るまでの経緯を語った。

 そして、「現在、日本の教育は課題も多く、教員不足や働き方改革の影響で、行事や委員会活動が減っています。しかし、私はこのような日本独自の教育スタイルが、世界的にも価値のあるものであり、未来に残していくべきものだと信じています。この映画を通して、日本の教育に対する理解が深まり、より多くの人々が日本の社会の今後や教育の方法を考える年末にみんなで考えれる風を巻き起こしたいなと思っています」とメッセージを伝えた。

 作品への想いを語った後、山崎監督は観客からのQ&Aに答えた。小学生の子どもがいる母親が1番目に手を挙げ、「たくさん撮影された中で、このシーンは入れたいけど、落としたみたいな場面の中で一番最初に思いつくものは何ですか?」と質問。山崎監督は「それよりも、自分の目で見たのにカメラに収められなかった場面がいくつもあり、悔しさを感じました。学校では、素敵な子どもや素晴らしい言葉を伝える先生が毎日見られます。毎日、時間割りなどをいただいて計画して、カメラマンを送り込むんですけど、突発的に起こる場面をすべて捉えるのは難しく、自分はマグロのように学校中を駆け回っていました。カメラマンがそこにいない時や、同じ場所にいても視点が違うことで、記録しきれない瞬間があることが悔しかったです。登校や給食などは100回以上撮影し、映画に収めたものは、その中から選りすぐりの映像と音を凝縮したもので、まるでそこにいたかのようなリアルさ、記録とかではなくて、自分の視点で、何度も撮影や編集を重ね、たくさんの関係者が登場していますが、1秒1秒のバランスを見て総合的に伝わるように調整しながら仕上げました」と答えた。

 次に海外の観客から「自身の子どもが香港と日本のハーフで、日本の小学校のことを日本人の旦那さんからいっぱい聞いていましたが、今回、より知る機会になってよかったです。いろんな制度を経験してきた監督は自分の子供をどういう学校に通わせたいですか?」と質問が投げかけられた。山崎監督は「撮影当時は自分の子どもがもしできたら、日本の公立小学校に入れたいと思っていました。実際に学校現場を見て、他の教育制度も経験してきましたが、総合的に見れば世界一だと思っていました。実際に自分の子供が生まれて、夫はアメリカ人で、自分の子供は見た目で言うと白人に見えますが、この1年を経験して、学校現場のいろんな場面を見ても全然思いは変わらない。自分の息子は公立の小学校に入れたいと思います。もちろん完璧な制度なんて世界中にないんですけど、例えば6歳から12歳、この年齢に関しては、私が知る限り、日本の教育は総合的にプラスがとてもある。子どもたちが給食や掃除、委員会活動を通じて自分たちで物事を進めることや、協力し合うこと、思いやりを学ぶ環境は、日本ならではのものです。もちろん、日本の教育にも課題はありますが、個性を育てることについては10代から20代で伸ばせると考えています。欧米では個性を優先し、その後協力を学ぶ傾向がありますが、自分の子どもにはまずコミュニティの中で協力し合う喜びや役立つことを学んでほしいです。優先順位としてはですね、全部同時に学ばせたいんですけど。子どもはまだ2歳ですが、今でも日本の公立小学校に通わせたいという思いは変わらず、むしろ強くなりました」と思いを述べた。

 最後に教育関係者である観客からは「学校には厳しくも温かい先生方がいて、共通して子どもたちを大切にする姿勢が見られました。それが学校全体の形にも表れていると感じました。ただ、地元でこれだけのことをしている学校がどれほどあるのか、今後変わっていくのかと考えさせられました。また、子どもたちが様々な困難を乗り越えていく姿に大変感動しました。今、自分が大切に思うのは、失敗しても一歩踏み出す勇気であり、その一歩を支えるのは大人の役割です。映画でも、家族が支え、子どもたちが大切にされている姿が映し出されていました。これからの日本でも、こうした「子どもを大切にする」姿勢を皆で守っていくべきだと強く感じました。感動をありがとうございました」と感想が述べられた。

 山崎監督は締めの言葉と共に、「本作にはナレーションを入れませんでした。皆さんそれぞれの、今思っている日本に対する想いや教育に対することを掛け算していただいて、何か一つでも気づいたり、思うことあればいいと思っています。子どもたちが運動会や音楽会といった行事を通じて、辛くても頑張って、乗り越え、達成できたという自信をつけていくことの大切さを伝えたかったのです。時代が変わる中で、子どもたちの『ありのまま』を認めることが重視されていますが、それと同時に、何かを乗り越える体験を作るって、本当に難しいバランスだなと。日本の学校では、集団の中で協力し、支え合う経験を重ねていく場が1年の中で何回もいろんな形で提供できている。それがすごいと思うんですよね。不登校など課題もありますが、個人的にはそこは忘れないでほしい。日本人の強さの根源であると思うので、議論の中でとても大事なこととして残してほしいなと。この日本の教育の素晴らしさが、他の国々でも注目され、例えばエジプトでは日本式教育を取り入れようとする動きもあります。私は教育の専門家ではありませんが、だからこそ言えることもあると思うので、今後もこうした思いを伝えていきたいなと思っています。世界での反響はすでにありますが、今度は日本の中で風を吹かせたい。受け取り方は様々でいいんですけど、何か教育に関心を持ってほしいと思っています」と作品に込めた思いを伝えた。

■公開情報
『小学校〜それは小さな社会〜』
12月13日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・編集:山崎エマ
プロデューサー:エリック・ニアリ
撮影監督:加倉井和希
製作・制作:シネリック・クリエイティブ
国際共同製作:NHK
共同制作:Pystymetsä Point du Jour YLE France Télévisions
製作協力:鈍牛俱楽部
配給:ハピネットファントムスタジオ
宣伝:ミラクルヴォイス
2023年/日本・アメリカ・フィンランド・フランス/カラー/99分/5.1ch
©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour
公式サイト:shogakko-film.com
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