上田麗奈、“魔性”の魅力をあえて封印? 『アオのハコ』で見せる正統派ヒロインの質感

 しかし『アオのハコ』の千夏役に、上田の演技が合っていないというわけでは決してない。むしろこの上ないハマリ役で、はやくも名演技が量産されている。

 たとえば第1話の終盤、千夏が親の転勤で海外に行くという話を聞いた大喜が、「インターハイ行ってください」「諦めないでください」と引き留めるシーンでのこと。これは結果的には大喜の勘違いで、千夏は親の転勤に付いていかず、日本に残るつもりだったのだが、実はその選択には以前大喜と交わした言葉が影響していた。

 千夏が言うには、大喜の言葉から中学の部活を引退した時の悔しさを思い出し、日本に残ることを決断できたのだという。そして「君のおかげだよ。ありがとう、猪股大喜くん」と感謝を告げるのだった。

 この声はまだ誰も来ていない2人きりの体育館に響き渡るのだが、早朝の澄み切った空気に溶けていくような透明感をまとっていた。それに続いて発される「また1on1しよ!」というセリフも、自然体でありながら青春の熱を帯びており、上田の演技あってこその名シーンとなっている。

 実をいえば上田の演技は、どこか生身っぽい質感を漂わせることが多い。その魅力が“ふつう”で等身大の女の子を演じるために最大限発揮されているのが、『アオのハコ』の千夏役なのではないだろうか。

 また、新条アカネや佐上睦実の行動原理が物語終盤になるまで明かされなかったのに対して、『アオのハコ』の千夏は第1話時点で自身の思いをストレートに告げる。そうした“等身大”ぶりを、これまでの上田の演技を知っている視聴者であればこそ意外なものとして受け取ってしまい、千夏の“正統派ヒロイン”らしさが強調されるようだ。

 ちなみに作者の三浦糀はこの声とキャラクターのベストマッチを予期していたのか、声優オーディションを行った際、上田の演技を聞いて“即決”で千夏役にキャスティングしたという逸話がある。

 なお上田は今期アニメでは、『君は冥土様。』でもラブコメアニメのメインヒロインにキャスティングされている。同作の雪/シュエ役は、家事が苦手なドジメイドながらその正体は元・超一流の暗殺者……という設定で、また一味違う方向性だ。声優・上田麗奈はデビューから10年を超えて、さらなる進化を果たしつつあるのかもしれない。

■放送情報
TVアニメ『アオのハコ』
TBS系にて、毎週木曜23:56〜放送
Netflixにて先行配信
各配信サイトにてTV放送終了後に順次配信
キャスト:千葉翔也(猪股大喜役)、上田麗奈(鹿野千夏役)、鬼頭明里(蝶野雛役)、小林千晃(笠原匡役)、内田雄馬(針生健吾役)ほか
原作:三浦糀(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:矢野雄一郎
キャラクターデザイン・総作画監督:谷野美穂
シリーズ構成・脚本:柿原優子
色彩設計:今野成美
美術監督:藤井王之王
撮影監督:川下裕樹
編集:笠原義宏
音響監督:明田川仁
音楽:大間々昂
クリエイティブアドバイザー:モギ シンゴ
企画プロデュース:UNLIMITED PRODUCE by TMS
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
オープニングテーマ:Official髭男dism「Same Blue」(IRORI Records / PONY CANYON)
エンディングテーマ:Eve「ティーンエイジブルー」(TOY'S FACTORY)
©三浦糀/集英社・「アオのハコ」製作委員会
公式サイト:https://aonohako-anime.com/
公式X(旧Twitter):@aonohako_PR
アニメ公式TikTok :@aonohako_PR

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