“アメコミ”からあえて距離を置いた『ジョーカー2』 最後に登場したカートゥーンの意味とは

プロト・ジョーカーという概念

 実は、前作の『ジョーカー』を観た時にまっさきに思い出したのが『GOTHAM/ゴッサム』というTVドラマシリーズでした。この『GOTHAM/ゴッサム』というのは、バットマンが登場する前のゴッサム・シティを舞台に、若き日のゴードン警部が活躍するクライムドラマですが、そこに明らかにジョーカーっぽいキャラが出てきます。ジェロームというキャラなんですが、このドラマでは彼がジョーカーだったというより、彼の狂気が伝承され、ゴッサムに真のジョーカーが生まれることを描いていました。なのでジェロームはジョーカーのプロトタイプという位置づけです(なお、今年開催される「東京コミコン2024」では、この『GOTHAM/ゴッサム』の主演であるベン・マッケンジーとモリーナ・バッカリンが来日します)。

 そして映画『ジョーカー』も、ジョーカーと名乗り凶行に及んだアーサーの行為によって、ゴッサムの街に“ジョーカー”という想念が発生し、いつか本当のジョーカーが生まれる(ないしそれを引き継ぐ者が新の、真のジョーカーになる)と解釈できます。今回の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』のラストでジョーカーを刺殺した男が本当のジョーカーになる、と考えられるわけです。このシーンをよく見直すと、あの男が刺殺後、自分の顔を切り裂いているっぽい仕草をしています。これは『ダークナイト』に出てきた、ヒース・レジャー版ジョーカー(彼も顔と口を切り裂いている)を彷彿させますから。

 なおこのシーン、最後にアーサーに面会に来たのは誰なんでしょうか? ひょっとして、あの看守がアーサーにしたことや若い囚人を殺したことへの口封じのために、「面会が来てるぞ」と嘘を言ってアーサーをおびき出し、あの男と組んで殺させたのでは?

レディー・ガガはちゃんとハーレイ・クインだった

 本作においてアーサーはジョーカーでなかったかもしれませんが、ガガが演じるリーはちゃんとハーレイ・クインだったと思います。まず劇中での本名がコミック同様、ハーリーン・クインゼルだったということ。精神科医でジョーカーに感化され闇落ちしたこと。と原作の設定をおさえています。また、クライマックスで赤と黒のコーデというのもハーレイっぽい。

 ハーレイはジョーカーを愛してるのであって、だから“アーサーがジョーカーでない”とわかったときに彼を切り捨てたのは当然だったのではないでしょうか。原作では、ハーレイは混乱と狂気をひきおこす存在であるので、そういう意味で本作で一番事件を起こすのは彼女ですよね。

 ショーウィンドウをぶち壊してTVを盗むあたり、映画『スーサイド・スクワッド』でのマーゴット・ロビー版ハーレイの行動に通じるものがありました。

 なおハーレイの妊娠ですが、TVゲームの『バットマン:アーカム・シティ』で、ハーレイが妊娠検査薬でテストして陽性と出る場面があり、ジョーカーとの子を身籠った? と言われたことがあります(しかし、そのゲームの続編でこの設定は否定)。

 トッド・フィリップス監督は否定していますが、もし『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の続編が作られるとしたら、主人公はこのリーでしょう。リーはきちんとハーレイ・クインとして暴れてくれるでしょうから。

 ほかにも、コミックからの引用でいうと、アーサーの裁判を担当する検事ハービー・デントは、顔に傷を負いトゥ―・フェイスと呼ばれるヴィランになるキャラです。映画『ダークナイト』にも登場しました。本作でも法廷の爆発テロで顔に傷を負ったととれなくもない描写があります。またウェイン社(バットマンことブルース・ウェインの実家企業)もちらっと映ります。

 最後に自分の感想ですが、今回の『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を『ジョーカー』と続けて観たら印象が変わるだろうなと思いました。『ジョーカー』『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』で一つの作品であり、“ジョーカー”でなくアーサーという男の物語として。僕が『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を観てまっさきに思い出したのが、『アラビアのロレンス』という映画だったんです。あの作品も、前半は砂漠の英雄ロレンスが活躍するのですが、後半、ある事件(出来事)がきっかけとなってロレンスの歯車が大きく変わっていくんです。子ども心にそのギャップが印象的でした。ロレンスに起こったその事件と今回のアーサーの身にふりかかったこと(法廷から戻った際、看守たちにリンチされる)が似ているなと。

 『ジョーカー』は衝撃作、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は問題作。観終わった後、語りたくなる映画です。

■公開情報
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
全国公開中
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、レディー・ガガ、ブレンダン・グリーソン、キャサリン・キーナー、ザジー・ビーツ
配給:ワーナー・ブラザース映画
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