『西園寺さん』『クラ好き 』『Shrink』の秀逸な脚色 原作を見事に映像化した夏ドラマ3選
「夏ドラマ」が次々と最終回をむかえている。今期は原作のあるドラマに良作が多く、なかでも際立った3作を取り上げてみたい。
「みんなちがって、みんないい」を伝えた『クラ好き』
まずは、9月12日に最終回をむかえた『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読売テレビ/日本テレビ系)。爪切男による同名エッセイをドラマ化した本作は、原作の「一編につき1人のクラスメイトの女子の思い出を懐古する」という構成に、ドラマオリジナルのエピソードを加えている。この「オリジナル」の仕掛けが見事だった。
主人公の枝松脛男(木村昴)は、中学1年生のときに埋めたタイムマシーンの中身を受け取る。宅急便の段ボールの中には、小説『春と群青』が書かれた身に覚えのないノートが入っていた。小説家志望だった枝松は『春と群青』を盗作して小説を書き上げ、新人文学賞を受賞してしまう。
枝松の担当編集者である片山美晴(新川優愛)は、社内で「才能クラッシャー」の異名をとるほどにヒット作を出せておらず、上から「次がダメだったらクビ」と迫られていた。
2人は「盗作バレ」に怯えながらも、新連載コラム「クラスメイトの女子、全員好きでした」を進行し、『春と群青』の「真の作者探し」をはじめる。この「崖っぷちポンコツコンビ」による「真の作者探し」はドラマオリジナルエピソードだ。この「仕掛け」が視聴者の物語への没入度を高めさせながら、1話ごとの「クラスメイトの女子」の各エピソードを粒立たせ、それぞれのエピソードを絹糸のようになめらかに縫い合わせている。
お人好しで惚れっぽくて、ズルくてダメな枝松と、運に恵まれず冴えない社員編集者だけれど、枝松の文才を誰よりも理解し、最後まで担当作家を見離さない片山を、木村昴と新川優愛が瑞々しく演じている。2人とも本作が俳優としての代表作と言ってもいいのではないか、というぐらいの好演だ。
また、中学時代の回想パートも素晴らしい。13歳の枝松を演じた及川桃利のピュアで抜け感のある芝居がこのドラマの大きな吸引力になっている。枝松のクラスメイトを演じる俳優たちはオーディションで選んだといい、綾部真弥監督は選考基準について「人としても芝居としてもゴツゴツした子たちに、なるべく集まってもらいたかった」(※1)と語っており、まさにそのキャスティングが功を奏している。クラスメイトそれぞれの個性が実にナチュラルで、かつ大人役を演じる俳優とのマッチングも見事だった。
どんな個性も「その人らしさ」。惚れっぽい純情ボーイ、枝松の視点を介して、コメディでありながら、さりげなくも真摯に「みんなちがって、みんないい」を伝えた良作だった。
志が見えた『Shrinkー精神科医ヨワイー』
次に、9月14日に放送を終了した『Shrinkー精神科医ヨワイー』(NHK総合)。原作・七海仁、漫画・月子による同名漫画を原作に、小説家で脚本家の大山淳子によるシナリオでドラマ化した。
第1話の「パニック症」は、原作でも第1話に登場するエピソード(原作ではタイトル「パニック障害」)で、患者の境遇を独身女性から、働くシングルマザーの設定に変えている。このアレンジにより雪村(夏帆)の過酷さがよりわかりやすくなったうえに、保育園の送り迎えの際に耳にする「ママたちの井戸端会議」で、精神科・心療内科に通う患者への偏見を提示した。最後に息子のお遊戯会で希望を表現した展開も美しかった。
主人公の弱井を演じる中村倫也が、この人以外には考えられないという見事なキャスティングだ。彼のソフトで寄り添うような言葉が、患者たちの中にスッと落ちていくのを感じながら、観ているこちらも同じ状態になる。
第1話では主に「精神科」に対する偏見を解き、続く第2話「双極症」、第3話「パーソナリティ症」では、それぞれの症状についてより詳しく描かれた。「病名ぐらいは聞いたことあるけど」程度の「知っている」から生じる誤解を、弱井が丁寧に解きほぐしていく。どんなことがきっかけで病気になるのか、脳内のどんなメカニズムでそうなるのか、どんな特徴があるのか、どんな治療と、どういった取り組みをしていけばいいのかなどが、つぶさに、リアリティを伴って描写されていた。
アメリカでは4人に1人が精神疾患の患者であるのに、自殺率は世界で20位。対して日本の精神疾患の患者は12人に1人だが、自殺率が世界で6位。この「隠れ精神疾患大国」の現状はかなり深刻だといえる。ドラマを通じて、精神科への通院のハードルを下げたい、苦しみを独りで抱えている人の背中をさすって、押したいという、作り手の志が感じられた。
わずか3話のみの放送だったが、「これからまだ続きがあるのでは」と思わせるラストシーンだった。続編に期待したい。