『虎に翼』寅子と航一が“らしさ”尊重した事実婚選ぶ 2人が交わした遺言書に込めた意味

 『虎に翼』(NHK総合)第104話では猪爪家の新たな門出を祝福した。

 結婚をやめようという航一(岡田将生)の真意は、婚姻届を提出して行う法律婚をしないことにあった。夫婦が同じ姓を名乗り、職場での通称使用が認められない婚姻制度は「僕たちの幸せにそぐわない」ため、それを追い求めるのはやめる。代わりに互いの意思を記した遺言書を取り交わすことで夫婦になったこととする、と航一は提案した。

 航一は「夫のようなもの」というが、事実上の夫婦でパートナーである。これに対して、寅子(伊藤沙莉)は、自分が折れれば「ようなもの」などというあいまいな関係にせずに済むと話す。「折れる」とは、ここでは法律婚を受け入れ星姓を名乗ることを意味する。「私たちならば、折れてよかったと思える日がいつか来る」と寅子は語るが、航一はそれを押しとどめた。

「それでは、君の僕への愛情を利用した搾取になってしまう」

 航一は、愛情があるからといって法律婚を無理に受け入れることは違うと言いたかったのではないか。優三(仲野太賀)との結婚は、寅子にとって社会的な立場を得るためで、書生だった優三は寅子に好意を抱いていたが、そこに搾取の構造があることに航一は気付いていた。第103話で、遠藤(和田正人)の「自分が曲げたくないものを折るのは、自分も折らせた相手も傷つける」という言葉もあったが、選択のいびつさによって互いに苦しむことがないよう配慮した結果が事実婚だったと納得した。

 寅子にとって重要だったのは、航一と夫婦になる想像ができたことだろう。河原を並んで散歩する夢は2人の将来の姿であり、優三とのことや結婚にまつわるしがらみが解消したことを暗示している。優三や航一の亡き妻・照子も記憶にとどめながら「会ったことのない『大切な人の大切な人』の話をなつかしく聞く」。一緒に生きていくイメージを持つことができ「航一さんとこういう夫婦になりたい」と思えた。ここに至って法律婚か否かはさして重要ではなく、寅子が踏み出すために必要な「段取り」だったと理解できる。

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