映画『globe tour 1999 Relation』が届ける圧巻のライブ体験 関係者が明かす当時の制作秘話

“ゲイン・ロス効果”を取り入れた唯一無二のステージ演出

――それでいうと、ライブの「Perfume of love」のシーンで印象的だった演出があります。エンタメ業界では世界的レジェンドなマーク・フィッシャーが手がけた、ラスボス的な存在で登場する巨大なタランチュラ姿のバルーンロボット=バボットもツアーで運用するのは大変そうでした。

長瀬:最初は、細いチューブを作れば動かせるかなって思っていたんだけど、マーク・フィッシャーのアイデアはもっと凄くて。中にチューブが入っていて強圧で足を動かすという発想で。あれは、ラジコンで手でコントロールしていたんです。

――マーク・フィッシャーに巨大バボットをオファーしたのはどんな流れから?

長瀬:小室さんに、ライブの途中で何か爆発的にでかい物を出したいって言われたんです。

――ああ、ピンク・フロイドの空飛ぶブタみたいなことですかね?

長井:そうそう、そういう突拍子もない発案は大抵アノ方(小室さん)ですから(笑)。

長瀬:マーク・ フィッシャーは、なかなか会える人じゃないと思ったんだけど、ちょうど日本に来ているタイミングで赤坂プリンスで会えたんです。図面を見せて、ここから蜘蛛がステージに出てきてここに落ちて。トラッキングフレーム、いわゆる上にレールがあってって話をして。

――はあ、すごいなあ。あの大きさのバボットで稼働するってすごいことですよね。しかも全国ツアーで使うから耐久性も求められるという。

長瀬:毎会場、メンテナンスをするスタッフがいました。

長井:職人の大場さんね。それこそ、膨らませたはいいけどしまわないといけないから。

長瀬:出すのはブロアをフル回転で空気を送ればいいんだけど、回収は空気を抜きながら押し潰さないといけなくって。

長井:あれ、タランチュラはどこに行ったんでしたかしら?

長瀬:最終的には千葉スタに行ったはずだけどわからないなあ。ツアー中にも加水分解で劣化していて。それをボンドで貼って修正してましたから。マネキンとかも、劇中で投げ飛ばすからボロボロだったもんね。

(左から)長瀬正典、長井延裕

――「wanna Be A Dreammaker」では、ミュージックビデオと完全リンクした、天井のガラスがKEIKOのシャウトで割れると言う演出に驚かされました。

長井:曲のイメージや歌詞から発想される演出を1曲ひとネタで考えていきましたよね。

長瀬:ガラスが高いから、だんだんリハーサルで割るのは無しってなったよね(笑)。

長井:そうそう(笑)。あれ、単純なガラスじゃないからね。割れても危なくないような特殊なガラスで。

長瀬:舞台・映画で使用する飴ガラスを使う案から始まり、大きなライブ会場での温度変化に対応できるよう特殊なガラスの使用に落ち着きました。

――名シーンですね。2024年の今だったら血が出るような演出は、『呪術廻戦』などがヒットしていたりと、一般層もそこまで違和感なく受け入れている世の中なのでよくわかるのですが……。当時、「globe tour 1999 Relation」」でもMARCが拘束具を着たり、ハンギング=首吊りをするなどショッキングなシーンが続いていました。この先鋭的な演出についてはどう思われていましたか?

長井:まさに、心理学的な下げの要素ですよね。下げれば下げるほど上げることができるという発想。ずいぶん議論しましたけどね。なんか事件が起きて、ピストルを使う流れから首吊りへと演出を変えたこともありました。

――ツアーコンセプトでもある、H・P・ラヴクラフトによる“人類最古で最強の感情は恐怖である”というメッセージが刺さりますね。

長井:そう、それを表現するにはどんなことができるかという議論。

長瀬:あの頃、SNSがないからお客さんがどんな反応があったかわからなかったよね。

何度も観たくなる中毒性は“考察”の要素から

――まさに“体験”をさせるライブでした。ステージを真正面から観るスタイルではなかったので、お客さんも観る場所によって全然体験が変わってくるという。しかも、あえて、globeの3人を見えづらくさせることでストレスを与えることまでも計算され尽くしたステージだったという。

長井:当時からライブの演出を考えるときに思っていたのは、“人間は、見えないものは見えない”ということですね。今年の、パリオリンピックの開会式もそうでしたが、結局一部分しか見えていないという。でも、人間という生き物は、足りないところを想像して補って楽しむということ。だから、我々作り手送り手からの出力は80%ぐらいにして、観ている人が20%をご自分の想像力で補って成立させるぐらいじゃないと面白いと思わないよねっていうのが、チームで共有していたコンセプトかもしれません。

――ほえ~、なるほど。

長井:その分、今回の映画やBlu-ray、そして8月16日にフジテレビTWOで放送される、当時製作したレアなドキュメンタリー(『BEHIND THE SCENE globe tour 1999 Relation特別復刻版』)で適宜補完していただくのは面白いかもです。新たに得た情報によってご自分が得た記憶を追認することで、「あ、なるほどこんな感じだったのかも」ぐらいがおもしろさってことなんじゃないかと。

――そこから生まれる欲求が、何度も観たくなる中毒性を生むし、掘り下げてクレジットからスタッフや演出をチェックしたり、考察が広がっていきますよね。

長瀬:当時、ライブで目撃したお客さんも、リピーターがどれだけいたかは分からないけど毎回席が違うと見え方が違ったんだろうね。あと、アリーナツアーでこの長体なステージは日本では当時まだなかったんですよね。

――情報量がとてつもなく大きなステージでしたよね。ちなみに、『globe tour 1999 Relation』の演出を考える際、数年前に小室さんと会話した際、パリの美術館ポンピドゥー・センターからのリファレンスが大きかったと回想されていました。

長井:それは、パリで行われた「1998 FIFAワールドカップ」に行った時じゃないかな? フランス大会公式テーマソング「TOGETHER NOW」を小室さんはジャン・ミッシェル・ジャールさんと一緒にやって、しかもパリのイベントではエッフェル塔で、100万人の観衆の前で『RENDEZ-VOUS '98 ELECTRONIC NIGHT』としてライブもやっていたよね。そして、それは2000年の沖縄サミットでのライブにもつながっていたし。

長瀬:そうそう、ステージの図面書いてくれって頼まれました。

――わあ、なんだかいろいろつながっていきますね。ちなみに、『globe tour 1999 Relation』に関するエピソードで今だからこそ言えることってありますか?

長井:お客さんがライブで覚えていることって、サムネイルというか5枚ぐらいの写真だと思うんです。そのサムネイルを情報や記憶において追体験することで動画化していくんではないかと思います。たぶん、人間の頭ってそうなっているんではなかろうかと。そんな話をメンバーと話していたような……。だから、イメージショットをキメる!というところで通じ合えたのではと思っています。それぞれ、見え方を研究していた3人だったので。締めとしては、アーティストやスタッフって(お客様に楽しんでいただくために)いろいろ考えているんですよ。なので、「ライブに行きましょう! そして、DON’T THINK, FEEL!」ということをお伝えしたいです。

長瀬:globeってバンドなんだと再認識しました。もし映画やBlu-ray作品でこの『globe tour 1999 Relation』を観て、エンターテインメント業界に少しでも興味や関心を持っていただけたら嬉しいですね。

『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』
キービジュアル

■上映情報
『globe tour 1999 Relationリマスター メモリアル ビューイング』
8月18日(日)19:00~全国の映画館にて上映
チケット他詳細は特設サイトまで
特設サイト:https://api-liveviewing.com/globe1999relation/

■リリース情報
『globe tour 1999 Relation Remaster Edition』
8月28日(水)発売
【初回生産限定盤】
品番:AVXG-72064
価格:7,480円(税込)
●特製スリーブケース
●豪華フォト&復刻資料ブック
●NeSTREAM LIVE 視聴シリアルコード封入  Dolby Atmos®
約132分
詳細:https://avex.jp/globe/relation-remaster/

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