松本若菜×松村北斗『西園寺さん』が“普通のラブコメ”ではないからこそたどり着けるもの

 2024年春ドラマのトレンドが「記憶喪失(障害)」ならば、この夏は「家族」をテーマにした作品が多い。

 元恋人の死をきっかけに娘の存在が発覚する『海のはじまり』(フジテレビ系)やユニークな岸本家の波瀾万丈な人生を綴った『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)、『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)は血縁関係が薄い家族が一つ屋根の下で暮らしている。さらに『あの子の子ども』(カンテレ・フジテレビ系)では、予期しない妊娠をした高校生カップルとその家族が、どのように新しい命を受け入れるのかを描き、寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)の想いが通じ合った『虎に翼』(NHK総合)では、これからステップファミリーの問題が待っている。

 ……家族って、むずかしい。家族にまつわる多種多様な物語を摂取した結果、改めて考えてみると、その一言に尽きる。血縁関係の有無に関わらず、どの家族にもそれぞれの事情があり、どの家族も複雑だ。同じテーマを扱ったとしても、なにひとつとして、同じ味にならないのが「家族」というテーマの魅力だろう。

 さまざまな価値観が交差する中で、颯爽と新世代の家族観を提示してきたのが『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)である。家事レスアプリ制作会社「レスQ」に勤める西園寺一妃(松本若菜)は独身生活を満喫していたが、火事で家を失った同僚・楠見(松村北斗)とその娘・ルカ(倉田瑛茉)を放って置けず、共同生活を始めることに。他人に迷惑をかけられないと頑な楠見に対して、西園寺さんは“疑似家族”になることを提案。楠見と夫婦になるわけでもなく、亡くなったルカの母親代わりになるわけでもない。ただ「気を遣わないで」「助け合う」関係になりたいから“疑似家族”をやってみる。そんな“普通“ではない3人が、前例のないやり方で、自分たちの幸せを模索していくストーリーだ。

 原作はドラマ化された『ホタルノヒカリ』などを手がける、ひうらさとるの人気漫画。苦手な家事は一切やらず、自分のQOLを追求するバリキャリ女子・西園寺さんは『ホタルノヒカリ』で提唱された“ヒモノ女”の令和アップデート版ともいえるだろう。全方位から好かれそうな求心力みなぎる松本若菜と、原作から飛び出てきたような造形詣の松村北斗、そしてキュートさ全開の倉田瑛茉に、日本中が熱い視線をそそいでいる。

 しかし、この“偽家族”生活、実際にやってみるとなかなかむずかしいことがわかる。楠見はワンオペでは対処しきれなかった育児と仕事との両立、西園寺さんは楠見親子とのかけがえのない時間を過ごせたりと双方にメリットはあるのだが、当初の楠見の懸念通り、もともと一人で暮らしていた西園寺さんの負担がどうしても大きくなってしまう。「やりたいことをやる」が西園寺さんのモットーではあるが、その言葉が逆に呪いになり、従来の西園寺さんならば避けていたことを「これは私がやりたいことだから」と思い込んで、自分のキャパシティを無理に広げようとしているようにも窺えた。

 本来ならば“家族”という単位だけでなく、地域や社会でチーム一丸となり、子どもを育てることが理想のはず。まさに西園寺さんが提示した血縁を超えた“チーム”のような連帯こそが、いまの時代には求められているのだろう。だが現在の日本は、その柔軟な考えを受け入れる基盤がまだ整っていない。

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