叶姉妹、『劇場版モノノ怪 唐傘』の“現代性”を絶賛 「これは人生の椅子取りゲームよ」

叶姉妹と似ている『劇場版モノノ怪 唐傘』のキャラクターは?

ーー『劇場版モノノ怪 唐傘』に登場する薬売り以外のキャラクターの印象もお伺いしたいです。

美香:お姉さんはアサに似ていると思います。ビジュアル的にも作品の中で一番麗しく綺麗ですし、ものの見方など、いろんな意味で姉に似ているなと感じました。もしヘアスタイルを、アサがもっとグリースで整えたら、さらに華やかになると思います。そういった容姿の面でも、とても姉に似ていると思いました。劇中では、完璧なアサの救いになっているのがカメなのも良いですよね。「同時に私の気持ちを引き留めてくれるものがありました、それがおカメです」という台詞がありましたが、その言葉がアサにとっての答えになるのかなと思いました。

アサ

恭子:美香さんはカメであり、アサでもあるのよ。アサのように、ぱっと見た瞬間にその場の雰囲気を把握して、全てのことをちゃんと理解できる。今自分が何をすべきか、もしくは今は何をすべきかがわかる人というのは、直感力をはじめいろんな能力に長けていますから。そして美香さんには、人に救いを与えられるカメの側面もあると思いました。

カメ

――大奥は男性が立ち入れない特殊な空間ですが、お二人はこの作品を通して現代社会に通じるメッセージをどう感じ取られましたか?

美香:大奥の「御年寄」である歌山さんの言葉は、現代にも通じると思いました。「意思と能力のあるものには少し重めの荷物を背負わせる」「誰だって我が身がかわいい。認められたい、愛されたい、必要とされたい。これらは自分自身では満たせぬ感情だ。これを満たしてくれるはずの隣人は、同時に比べられ、限られた席を奪い合う隣人でもある」この言葉を聞いて、なるほどと思ったのです。その時、姉が「美香さん、これはね。人生の椅子取りゲームよ」って言ったのです。

歌山

――詳しくお聞かせいただけますか?

美香:姉が「なぜそこにある椅子だけしか選ばないの? 他にも椅子はあるでしょう」って言ったのです。その言葉を聞いて、「椅子取りゲームの椅子は、その場所だけにあるわけではないのだ」と気づきました。もし椅子が無ければ、自分で持ってきてもいいのですよね。

恭子:そうよ、美香さん。椅子取りゲームはどの世界にも必ず存在するものなの。大奥の場合、天子様に選ばれるというのも一種のゲームで、そこにはいくつもの段階があるわけです。最終的な目標、言わば水晶でできたような素晴らしい椅子は1つしかない。でも、重要なのは、たとえその椅子に座れたとしても、永遠にそこにいられるわけではないということ。これは、わたくしにはよくわかることでもあります。そもそもこの映画の歌山さんが言ってらっしゃる言葉には、わたくしの考えに近しいものが多いのです。

――例えばどういった歌山の言葉でしょうか?

恭子:わたくしが一番印象に残ったのは、「先に進めば高みから違う景色が見える」というフレーズです。これはわたくし自身がよく口にする言葉でもあるので、この映画に特別な親近感を覚えました。まるでわたくしの考えを理解してくれているかのようでしたね。

美香:そうですね。実際、わたくしたちがオペラを観る時、いつもロイヤルボックスから観させていただくのです。でも、時々近くで観たいという思いもあって、下の席から観ることもあるのです。そうすると、同じ舞台なのに景色が全然違って観えるのですよ。

恭子:大奥で天子様に選ばれるというのは、とても名誉なことで、言わば頂点に登り詰めることでもあります。そういうシステムを理解した上で、自ら望んで入った人たちがほとんどなのですから。だからこそ、天子様に選ばれることに意味があるわけです。

美香:やや宗教的ともいえる、集団生活に馴染むことの難しさも大きく描かれていますよね。そして、馴染んで更にとりしきる。大奥で生きていくには、自分自身を殺して、その環境に染まっていかなければいけない。だから大切なものを全て捨てなければならない。それでも、人さまと違う感覚を持つこともあるわけですし、それが間違っているわけではないのです。

叶恭子「なぜ“あなたが”選ばないの?」

ーー『モノノ怪』シリーズは各時代の女性の社会的苦悩を描いてきました。大奥を舞台にした女性たちが抱えるたくさんの葛藤の中でも、「天子様に選ばれたい」という願望について、現代女性のさまざまな悩み相談を受けられてきたお二人はどのように解釈されましたか?

恭子:最近でも「選ばれたい」という悩みについて、さまざまなご相談を受けることがあります。でも、わたくしがいつも言っているのは「なぜあなたが選ばないの?」ということなのです。なぜあなたが選ばれなければいけないのか。そこまでして選ばれる必要がある人なのか、ということを本当はご存知ではないのではないかと思うのです。つまり、わたくしが感じるのは、日本の女性はまず「自分の人生を徹底して自分が選ぶ」という発想自体を持っていないことが多いということですね。

美香:そうですね。現代において、「なぜ自分で選ばないのか」というテーマはとても重要だと思います。そもそもその選択肢を考えていない、持っていない方が多いのではないかと、この作品を観て考えさせられました。

恭子:なぜなのでしょうね。大奥の世界や一夫多妻制の世界では、選ばれることがとても重要だということは理解できます。例えそれが妻の立場が1人でなく不安定であっても。しかし、現在の日本社会においては、自分たちは対等であっても良いはずですよね。もちろん、経済的なことはさておき「女性がなぜそれほどまでに、選ばれなければいけない立場なのか」ということを皆さんご自身が、自問自答してみると良いと思います。

■公開情報
『劇場版モノノ怪 唐傘』
7月26日(金)全国公開
キャスト:神谷浩史(薬売り役)、黒沢ともよ(アサ役)、悠木碧(カメ役)、花澤香菜(北川役)、小山茉美(歌山役)、戸松遥(大友ボタン役)、日笠陽子(時田フキ役)、甲斐田裕子(淡島役)、ゆかな(麦谷役)、梶裕貴(三郎丸役)、福山潤(平基役)、細見大輔(坂下役)、入野自由(天子役)、津田健次郎(溝呂木北斗役)
監督:中村健治
キャラクターデザイン:永田狐子
アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一
美術監督:倉本章、斎藤陽子
色彩設計:辻󠄀田邦夫
ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D監督:白井賢一
編集:西山茂
音響監督:長崎行男
音楽:岩崎琢
主題歌:アイナ・ジ・エンド「Love Sick」(avex trax)
プロデューサー:佐藤公章、須藤雄樹
企画プロデュース:山本幸治
制作:EOTA
製作:ツインエンジン
©︎ツインエンジン
公式サイト:https://www.mononoke-movie.com/
15周年記念サイト:https://www.mononoke-15th.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/anime_mononoke
公式Instagram:https://www.instagram.com/mononoke_movie_official/

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