『クラユカバ』『クラメルカガリ』の濃密な世界観を堪能 特典映像でさらに深まる作品理解

 2024年の劇場アニメシーンは多様性に富んでいる。興行収入100億円を突破するフランチャイズ作品から、こだわりの中編作品、作家性が光る作品まで、幅広いラインナップが揃う。

 そんな中、独特の個性を放ったのが塚原重義監督だ。インディペンデント・アニメーション界で実績を積んだ塚原監督が、その独自の世界観を商業アニメでも存分に発揮。約60分の劇場アニメ『クラユカバ』と『クラメルカガリ』を同時公開し、特異なセンスを銀幕で披露した。

 2本同時リリースは異例だが、塚原監督の真髄を堪能する上で重要な選択だったと言える。監督が構築する独創的な世界は、1本では物足りなさを感じさせるほどの奥行きを持つからだ。

 『クラユカバ』と『クラメルカガリ』は、共通の世界観の上に築かれた独立した物語だ。一部のキャラクターが両作に登場するものの、直接的なつながりはなく、それぞれ単体で楽しめる。しかし、1本観ると、この独特の世界をさらに探求したくなり、もう1本への興味が湧く。

 塚原監督が創造する世界は、大正浪漫的な雰囲気と和風スチームパンクを融合させ、活気に満ちた雑多な町並みが広がる。全編に独自のざらついたフィルターをかけ、作品に独特の色彩を与えている。無秩序に建てられたかのような建築物、レトロフューチャーなマシン群、そして猥雑で活力溢れる町の匂いが混ざり合い、唯一無二の空間を形成する。フィクションでしかあり得ない世界ながら、確かな生活感が漂う世界だ。

 セリフは落語や講談、活動写真の弁士を彷彿とさせる調子で、レトロな雰囲気作りに一役買っている。現役弁士の坂本頼光も出演し、軽妙な語りを披露。令和の時代に「大正・昭和」の香りを徹底的に再現している。

 『クラユカバ』と『クラメルカガリ』は同じ世界観でありながら、物語の方向性が異なる。『クラユカバ』が1人の男の内面世界を掘り下げるように薄暗い地下道を進むのに対し、『クラメルカガリ』は明るい群像劇として町を縦横無尽に駆け巡る。

 『クラユカバ』は探偵業を営む青年・荘太郎が謎の失踪事件を追う物語だ。知人の記者から集団失踪事件の真相究明を安請け合いした荘太郎は、調査を情報屋のサキに依頼するが、地下を支配するギャング福面党にサキを誘拐される。失踪事件と誘拐事件、2つの謎を解くため、荘太郎は手がかりがあるとされる地下の町「クラガリ」に潜入。福面党と対立し、失踪事件も追う装甲列車の指揮官タンネと共にクラガリの奥へと進んでいく。

 クラガリを探索するうちに、荘太郎は「クラガリに惹かれるな」と言い残して失踪した父の記憶を取り戻していく。事件の真相と父の失踪の謎が交錯する中、活動写真のイメージを巧みに用いて幻想と現実の境界を行き来しながら、主人公の内面に切り込んでいく。

 主人公・荘太郎を演じるのは人気講談師の六代目・神田伯山だ。彼の起用にも塚原監督の慧眼が伺える。伯山の声質は作品世界に見事に調和し、奥行きのある主人公像を創出している。タンネ役の黒沢ともよの台詞回しも軽妙洒脱で魅力的だ。独特の世界観を演技面でも支えている。

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