『虎に翼』寅子と優未の間にできた“しこり” 猪爪家の子どもたちが体現する“家族の在り方”

「間違えた部分はきちんと復習して勉強するのよ。そしたら次は100点だから」

 これは、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)第68話で“84点”をとってきた優未(竹澤咲子)に対して、寅子(伊藤沙莉)が投げかけた言葉だ。一瞬の間が空いた後に、優未は元気に返事をする。もしあなたが優未だったら、この言葉をどう捉えただろうか。

 
 少し余談にはなるが、筆者もまたこうした言葉を親にかけられたことがあるし、実際のところ、同じような経験のある人は多いのではないか。だからこそわかる。優未はきっと、ただ満面の笑顔の寅子に「優未〜! 84点も取れて、よく頑張ったじゃない!」と褒めてほしかっただけなのだと。

 もちろん、声のトーンや態度からも、寅子の言葉に悪意が込められていないことは明白だ。彼女が並外れた努力家であることは、これまでのストーリーでも丁寧に描かれてきた。学生時代に積み重ねてきた必死の勉強、家庭裁判所の設立に向けた奔走……どちらも彼女の弛まぬ努力と情熱の結晶である。

 だからこそ、自分自身の経験を踏まえて、愛する娘の優未にも頑張ってほしいと、母親として心から願っている。そのような気持ちが“無意識に”溢れてしまった場面でもあったと思う。

 寅子を責める者はいない。彼女は家族のために懸命に努力を重ねてきたのだから。家庭のことは花江が、仕事は寅子が、それぞれの役割を全うすることで、猪爪家は何とかやってこられたのだ。

 しかし、寅子が家庭の大黒柱となった現在、微妙な変化が生じつつある。優未をはじめ、直人(琉人)や直治(楠楓馬)、そして花江(森田望智)までもが、時折微妙な表情を浮かべることがある。それは単なる不満というより、言葉を飲み込んで押し殺すような複雑な感情の入り混じった眼差しでもある。

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