『ブルー きみは大丈夫』のテーマを深掘り イマジナリーフレンドという存在の本質的な追求
『インサイド・ヘッド2』がアメリカで大ヒットデビューを果たした。「ピクサー復権」との声があがるなかで、「まるでピクサー作品の実写版」とでも言えるような一作『ブルー きみは大丈夫』が、いま日本で公開されている。
原題は、『IF』。劇中で明かされるように、それは「Imaginary Friend(イマジナリーフレンド)」の略としての意味がある。つまり本作『ブルー きみは大丈夫』は、主に子どもが、想像で生み出す友達のことである「イマジナリーフレンド」を題材とした作品なのだ。いろんな子どもたちによって生み出された「IF」たちが一堂に会し、ある少女と交流する様子が描かれていくのだ。
監督は、俳優として活躍してきたジョン・クラシンスキーだ。『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』で主演を務めながら、監督業では自ら出演もする『クワイエット・プレイス』シリーズを大きな成功へと導き、映画界、ドラマ界で多彩な才能を発揮している。本作でも、監督と俳優という二足のわらじを履くこととなり、少女役のケイリー・フレミング、ライアン・レイノルズ、豪華声優陣らとの共演を果たしている。
そんな本作は、イマジナリーフレンドという題材を通して、いったい何を描こうとしたのだろうか。子どもが楽しめる内容でありながら、かつて子どもだった大人たちも楽しめる本作のテーマを、ここではできる限り深掘りしていきたい。
芸達者なジョン・クラシンスキーは、数々のアニメーション作品で声優としても活躍している。そんな事情もあってか、CGアニメーションで表現されたキャラクターと実写の人物たちが画面内で共存する本作では、これまでにないほどの豪華な俳優陣を、「IF」たちの役の声優として集合させている。
大きくてモフモフな身体を持つ「ブルー」を演じるスティーヴ・カレルをはじめ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ(『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』)、ルイス・ゴセット・ジュニア(『ルーツ』)、さらにはオークワフィナ、エミリー・ブラント、ジョージ・クルーニー、ブラッドリー・クーパー、サム・ロックウェル、マット・デイモン、ブレイク・ライヴリー、マーヤ・ルドルフ、エイミー・シューマーなどが、「IF」たちの声優として集められた。ハリウッドでの人脈の強さがなければ、これほどの人気キャストを呼ぶのは不可能だろう。
このような主演級の俳優たちが、創造力に溢れたユニークなキャラクターたちを演じているのは面白い。現れてはすぐに消えてしまう「バブル」や、コップの中の水と氷という、ある意味哲学的な存在といえる「アイス」、おしゃべりなユニコーンの「ユニ」などなど、何となく演じる俳優のイメージや特徴を捉えているものもあり、それぞれの俳優が何の役を担当しているのかチェックしてみるのも面白いだろう。
さて、そんな豪華俳優陣のなかで、本作の主人公である少女「ビー」を演じることとなったのは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)などで主人公レイの幼少時代の役を務めたケイリー・フレミングだ。そして、彼女とともに「IF」たちの面倒をみる相棒役には、人気絶頂にあるライアン・レイノルズがキャスティングされ、作中でユーモアを振りまいている。
物語の舞台はニューヨーク。父(ジョン・クラシンスキー)の手術のため、思い出深い祖母(フィオナ・ショウ)の古いアパートに滞在することとなった12歳のビーは、亡くなった母親のように父がいなくなってしまうのではないかという不安のなかで日々を過ごすことになる。そんな彼女の前に現れたのは、「IF」たちと親交を持っている、同じアパートに住む人物(ライアン・レイノルズ)だった。彼の導きによってビーは、たくさんの「IF」たちに出会ってゆく。
「IF」たちは、かつて創造主である子どもたちによって生み出されたが、子どもの成長とともに必要とされなくなり忘れ去られてしまうと、引退して施設で余生を過ごすというのが、本作におけるイマジナリーフレンドの設定だ。そしてその施設が、ニューヨークはブルックリン区の南端、コニーアイランドの遊園地の地下に存在するというのが象徴的である。
コニーアイランドの遊園地は、1897年のオープン以来、閉業や改装、名前やテーマが変わったりなどを繰り返しながら現在も存在する、ニューヨークの味のある観光地だ。そのレトロな雰囲気は、日本でいえば国内最古の遊園地として知られる「浅草花やしき」を想起させるものがある。そんなランドマークの地下に、引退したキャラクターたちがひっそりと住んでいるというのは、何となく納得できるところがある。