『響け!ユーフォニアム』で考える部長論 黄前久美子、吉川優子、小笠原晴香の代を比較

 だからといって、前年に北宇治を全国大会出場へと導いた晴香の方が優れた部長だったかというと、これも難しい。晴香の代には滝の厳しい指導を嫌ってボイコットすると言い出す部員が出た。同級生の斎藤葵が退部してしまった時には自分の不甲斐なさを感じて嘆いていた。優しいとカバーする久美子に向かって「優しいしかないじゃない!」と叫ぶ晴香からは、能力以上の責任を負わされてしまった人が抱く不安と不満が感じられた。

 切れ者の田中あすかが断ったから自分に部長が押しつけられたという思いもあっただろう。あすかが部長だったらあらゆる問題が一刀両断にされていったに違いない。ただ、それで果たして北宇治の音楽が良くなって、翌年も関西大会出場を果たし翌々年の久美子の代で2年ぶりの全国出場を成し遂げるようになったかは疑問だ。聡明なあすかですら断った部長に就いた晴香の勇気を周りが認め、下級生も慕ってついていき、ある種の連帯感が生まれた。優子がカリスマで引っ張ったのだとしたら、晴香は人徳で盛り立てた。久美子の代まで北宇治が強さを保ち続けられたのも、この2人の力があったからだ。

 アクセルを目一杯に踏みがちな優子に副部長の中川夏紀がブレーキ役として付き、運営がうまくいったように、晴香にも良いサポート役がいたことも大きかった。それは副部長のあすかではない。中世古香織だ。葵の退部にショックを受けて家に引きこもっていた晴香を、香織は焼き芋持参で訪ねて慰めつつ鼓舞して部活に引き戻した。

 オーディションの結果、麗奈がソロを吹くことになった時も、敢えて再オーディションを申し出て、部員たちの前で麗奈を認めて譲ることで、北宇治は年功序列ではなく実力主義に変わったということを強く意識させようと企んだのかもしれない。そんな想像も浮かんでしまう香織の策士ぶりは、部長として行き詰まっていた久美子が助言を求めてあすかのマンションを訪ねた時にも発揮され、相変わらず辛辣なあすかをたしなめながら良いアドバイスを出させた。

 まさに北宇治“影の部長”といったところ。そんな存在が久美子にいたかというと、麗奈は音楽に真っ直ぐで妥協がなく、副部長の塚本秀一は男子部員のまとめ役程度にしか機能していない。3代で最も過酷な状況にあってなお決断できない久美子の部長としての資質は、3代では最低と言われても仕方がなかった。それが「つたえるアルペジオ」で覚醒し、部長としての責任を自覚し、リーダーシップを見せつつ責任も求めてすべてを一身に背負う覚悟を見せた。

 優子より弱く晴香より固かった久美子が、ようやく2人と並ぶところまでたどり着いた。

 上手くなりたい。そして北宇治の音を全国に響かせたい。そうした思いを確かにした久美子が部長として率いる北宇治高校吹奏楽部を縛り付けていた鎖は解けた。向かう先は全国大会。そこでたどり着く地平は? 結果はもうすぐ分かる。そこから浮かぶ久美子の部長としての力量と、久美子が得た思いを活かすために選ぶ道を見届けよう。

■放送情報
『響け!ユーフォニアム3』
NHK Eテレにて、毎週日曜17:00〜放送
キャスト:黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、戸松遥ほか
原作:武田綾乃
監督:石原立也
副監督:小川太一
シリーズ構成:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子、池田和美
総作画監督:池田和美
楽器設定:髙橋博行
楽器作画監督:太田稔
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:竹田明代
撮影監督:髙尾一也
3DCG監督:冨板紀宏
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
公式サイト:https://anime-eupho.com/

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