『光る君へ』吉高由里子×松下洸平の“心”を映す芝居 「抱きしめられると分かる」の重み

 『光る君へ』(NHK総合)第24回「忘れえぬ人」。まひろ(吉高由里子)は宣孝(佐々木蔵之介)から求婚され、さらには周明(松下洸平)からも一緒に宋へ行こうと誘われる。そんなまひろの胸の内には道長(柄本佑)がいる。

 第24回では、まひろを演じる吉高由里子の真摯で繊細な演技に心惹かれる。宣孝、周明、そしてまひろの父・為時(岸谷五朗)と向き合うまひろの表情には、かつて自分の気持ちを押し殺そうとしていた時とは違い、彼女自身の素直な気持ちが表れている。

 宣孝からの求婚にまひろは驚愕した。宣孝は「あの宋人と海を渡ってみたとて、忘れえぬ人からは逃げられまい」と口にする。飄々とした宣孝の口ぶりにまひろはムッとした顔を見せるが、「ありのままのお前を丸ごと引き受ける。それができるのはわしだけだ」と言われた時、吉高はまっすぐなまなざしを向けながら、かすかに息を呑むような所作を見せた。

 のちにまひろが父・為時に「そのお言葉が、少しばかり胸に沁みました」と打ち明けるが、その心の動きの一つだと感じられる。また、「忘れえぬ人がいてもよろしいのですか」とまひろが半ば自嘲気味に笑ってみせた時、宣孝はおどける様子もなく「よい。それもお前の一部だ」と即答し、「丸ごと引き受けるとはそういうことだ」と落ち着いた声色で言った。その時もまひろは、表情に大きな変化はないが、宣孝の言葉が胸に響いていることは伝わってきた。

 「自分が思う自分だけが自分ではない」と宣孝に言われるまで、自分自身に対して一面的なものの見方をしていたまひろだが、他者の心のあり方には敏感だ。まひろは周明から「一緒に宋に行こう」と告げられる。この場面でまひろは怪訝そうな面持ちを浮かべたり、曖昧に微笑んだりする。この表情を見せたのは、宣孝からの求婚も関係していると思うが、この時点ですでに「宋に行こう」と言う周明の心が別のところにあることに気づいていたようにも思う。

 宋の言葉で笑い合う2人の姿は仲睦まじい。だが、周明がまひろを抱き寄せ、左大臣に手紙を書いてほしいと言って口づけをしようとした時、まひろはそれを拒んだ。凛とした目つきで周明を見つめ、静かな口調で「あなたは嘘をついている」と言った。

 「抱きしめられると分かる」という言葉が切ない。しかしそれ以上に切なかったのは、“死”をほのめかす周明に怒りをあらわにする場面だ。周明から陶器の破片を首に突きつけられながらも「書けません」と拒み続ける描写は、周明の心を信じているからこその言動にも見える。「文を書かねば、お前を殺して、俺も死ぬ」と口にした周明に、まひろは「死という言葉をみだりに使わないで」と静かに憤る。「気安く死ぬなど言わないで!」という強い語気には、周明と心を通わせ始めていたからこそ、周明にそれだけは言ってほしくないと思ったまひろの素直な感情が感じられた。まひろの本心からの言葉を受け取った周明の目が涙で潤んで見えた。

 しかし宋人でも日本人でもない立場に苦しむ周明には、もはや引き返すことができない。「宋はお前が夢に描いているような国ではない」「民に等しく機会を与える国など、どこにもないのだ」と言い捨て、周明は去っていく。心を開き始めていた周明とすれ違う、切ない場面だった。

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