『虎に翼』は朝ドラにおける戦争観を更新 作品の根幹となる“生き残ってこそ”の価値観

『虎に翼』は朝ドラにおける戦争観を更新

 NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『虎に翼』が始まってまだ2カ月半だが、物語、テーマ、各登場人物の描き方がとても豊かで、「まだ半分以上あるのにこの濃密さはどういうことだ?」と毎話驚いている。

 本作は日本人女性として初めて弁護士、判事、裁判官長を務めた三淵嘉子をモデルとした寅子(伊藤沙莉)の物語だ。

 昭和6年(1931年)から物語は始まり、法律を学ぶために明律大学女子法科に進学した寅子が同じ志を持つ仲間たちと出会い、勉学に励む中で友情を育む様子が描かれる。

 その後、法学部に進学した寅子は、銀行で働く父・猪爪直言(岡部たかし)が、贈賄の疑惑で逮捕され、共亜事件に巻き込まれる。しかし、寅子の恩師・穂高重親(小林薫)は、直言の無罪を主張するため、共亜事件被疑者の弁護を引き受けている弁護士チームと協力して冤罪を晴らすための裁判を起こし、見事無罪を勝ち取る。

 共亜事件を筆頭に、劇中では様々な裁判が描かれる。裁判の中身について寅子たちが考察する姿を通して、視聴者も法律について学ぶことができるのが、本作の魅力だ。

 序盤は学園ドラマ+リーガルドラマのフォーマットを朝ドラで描いた本作だったが、朝ドラと法廷劇の相性はとても良く、「判決を言い渡す」と裁判官が言った後、次回に続くという「引き」を見せられたら「明日も観なくては」と、ついつい思ってしまう。

 女性が不当に虐げられている男社会に、法律の力で寅子たち女性が立ち向かうというフェミニズム思想を軸に置いたストーリーや女性の生きづらさに焦点を当てた描写に注目が集まっている本作だが、吉田恵里香の脚本にもっとも驚くのは、今の朝ドラで物語を紡ぐ上で何を見せ、何を省略するかという取捨選択の上手さで、話数が進めば進むほど、実に練り上げられた朝ドラだと感心する。

 何より圧倒されたのが、2カ月目で描かれた弁護士となった寅子が男社会の荒波に揉まれ疲弊していく姿だ。

 さまざまな理由で弁護士になれずに去っていった仲間たちの代わりに頑張ろうとする寅子だったが、未婚の女性という理由で依頼人がつかない。弁護士としての社会的な信頼度と地位を得るため、寅子は結婚相手を探し、猪爪家に書生として居候していた佐田優三(仲野太賀)と結婚し、やがて子供を授かる。しかし、妊娠が発覚したことで法律事務所を辞めることになる。

 興味深いのが同時進行で描かれた戦時下の様子だ。ラジオのニュースや寅子たちの身につけている衣類や食事の変化によって時局が悪化していく様子が間接的に描かれていた。寅子たち登場人物が当たり前の現実として戦時下の空気を受け止めている状態が、なんとも居心地が悪い。

『虎に翼』第41話

 戦争の影がじわじわと忍び寄り、気がつけば新しい日常として定着している。そして渦中にいる人間はその時代の価値観の枠組みの中からしか物事を判断することはできないという戦争観は、アニメ映画『窓際のトットちゃん』や、現在全国のミニシアターで大ヒットしているアウシュビッツ強制収容所の隣に建てた新居で暮らす所長のルドルフ・ヘスとその家族の日を描いた映画『関心領域』にも通じる現代的な戦争の描き方だろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる