『虎に翼』はこれまでの朝ドラと何が違うのか “ほんの少しずつの変化”が与えるリアリティ

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』は、朝ドラにさほど強い関心を寄せていなかった若い層にもリーチしている感がある。主人公・寅子(伊藤沙莉)がさまざまなことをわきまえず、「はて?」と疑問を持つ様子や不平等にぶつかっていく姿に共感し、勇気をもらっている視聴者も多いからだろう。

 また『虎に翼』には従来の朝ドラの定石を打ち破る斬新さがある。

 たとえば、寅子の結婚と出産。これまでの朝ドラヒロインが社会的地位担保のために結婚したことがあっただろうか。それぞれの時代背景もあるが過去作のヒロインたちが結婚する二大理由は「親が決めた相手だから」「その相手を好きだから」であった。だが、優三(仲野太賀)との婚姻を決めた時点で寅子に彼への恋情はなかったし、両親からも優三との結婚を薦められてはいない。

 その後、自分のすべてを肯定し受け容れてくれる優三の愛情と優しさに寅子も呼応し、ふたりは名実ともに夫婦となって子どもを授かる。が、出産シーンは放送されなかった。妊娠の報告から季節が過ぎ、赤ちゃんを背負う寅子の姿から視聴者は「あ、生まれたんだな」と自然に理解した形だ。

 また、父・直言(岡部たかし)の退場場面も予想外だった。優三の戦病死の報を隠匿していたことが発覚し、直言は病の中、枕元に家族を呼び寄せ自らの行いを懺悔する。どれだけ涙と怒り、悔恨、そして感動的な和解と家族の絆が描写されるかと思ったら、じつは優三でなく、花岡(岩田剛典)推しだったことや出来が良すぎる次男・直明(三山凌輝)が本当に自分の息子かと疑ったこともあるとの告白でシリアスは喜劇へと転化。話を終え息絶えたかと思わせ、じつは寝ただけとの落とし方もコメディさながらであった。

 寅子の妊娠と出産に関していえば、出産場面での母性の獲得といった描写はなく、妊娠による身体のツラさや誰よりも尊敬してきた師である穂高(小林薫)からの悪意なき残酷な言葉「結婚したからには子を産み育て母になることが一番の務め」、「雨垂れ石を穿つ、次の世代が君の犠牲を無駄にしない」や仲間であるよね(土居志央梨)からの批判的な態度などで寅子が受けるダメージと絶望が時間をかけて鋭利に描かれた。弁護士事務所に辞表を出し、生気を失った寅子の瞳は、結局、女は結婚し子どもを産んでも社会的地位は得られず地獄は続くのだと物語っているようでもあった。

 直言のキャラクターも朝ドラでは稀有な父親像。大手銀行勤務で海外経験もある仕事人でありつつ、父権バリバリとは真逆の家族ファーストの家庭人。弱さやダメなところは多々あるものの、直言だけが寅子の女子部進学をポジティブに捉え、法曹の道に進もうとする娘の背中をもっとも強く押した。また彼は一度も否定の意で「女の子だから」「女は」との言葉を娘にぶつけない父親だった。

 そして『虎に翼』での戦争の描写についても記しておきたい。

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