『ジュラシック・ワールド』を成功に導いた2作目 “無茶ぶり”に応えたJ・A・バヨナの手腕
ゴシックホラーと恐竜パニックの融合
映画の後半は、なんと米大陸本土のロックウッド邸が主な舞台となる。人里離れた森のなかに建つ豪邸には、一体どんな秘密が隠されているのか? 自分がこの企画に招聘された意味をしっかり理解しているJ・A・バヨナの演出は、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』で大はしゃぎぶりを露呈してしまったスピルバーグとは異なる、本気の大人の仕事である。もちろん、舞台の規模がコンパクトになれば、恐竜と人間が対峙するシーンも“対個人戦”がメインとなり、サスペンスも増す。
少女が横たわる真夜中の寝室にインドラプトル(遺伝子操作によって誕生した新型恐竜)が忍び寄り、古典的モンスターのごとく窓から顔を覗かせるシーンなど、ゴシックホラーと恐竜パニックの融合をごくスムーズに成立させていてさすがだ。また、広大な屋敷の豪奢で小奇麗な表向きの面と、その裏側に隠されたダークで血の通わない面の描き分けがナチュラルに上手い。カビ臭さとハイテクが同居する、牢獄めいた地下施設の描写はギレルモ・デル・トロ作品も思い出させてムード満点。
ロックウッド翁に溺愛される少女メイジー(イザベラ・サーモン)は、今作から登場するシリーズの重要なキャラクターだ。謎めいた彼女の存在は、かの『フランケンシュタイン』も思わせる禁忌のムードを漂わせ、ゴシックムードはさらに倍増。自らの出生の秘密を知り、やがて人間よりも恐竜たちのほうに共感を傾けていく彼女の“決断”が、劇的なクライマックスを生む。
メイジーの世話役もつとめる家政婦アイリス役を演じるのは、名女優ジェラルディン・チャップリン。かの喜劇王チャップリンの娘であり、公私にわたるパートナーだったカルロス・サウラ監督の『ペパーミント・フラッペ』(1967年)や『カラスの飼育』(1976年)、ペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』(2002年)などの出演作で、スペイン国民にも昔から愛されている女優である。バヨナ監督は初長編『永遠のこどもたち』から本作まで、深い敬愛を込めて彼女を起用してきた。過去の悲劇と秘密を背負いながら、孤独な少女を守り育ててきた家政婦を演じるジェラルディン・チャップリンの存在感は、まさにゴシックそのものである。
一方、コリン・トレボロウは今作で共同脚本と製作総指揮に回りつつ、新シリーズに共通するサブテーマを盛り込むことを忘れない。つまり、利潤追求のためにモラルを失った企業の暴走、そして資本主義社会が招く破滅への警鐘だ。「人気タイトルのフランチャイズ化で稼ぐ連中が何を言うか」と言いたい気持ちもわかるが、ここは素直に、現場の作り手たちのしたたかな反骨心の表明と受け取っておこう。『炎の王国』では、恐竜たちを生体兵器やステイタスシンボルとしか見ていない戦争成金や大富豪たちが、屋敷内でオークションに興じる醜悪で退廃的な姿も描かれる。ヨーロッパの業深い歴史を身近なものとして学んできたバヨナ監督だからこそ実感を込めて描ける場面であり、その会場が阿鼻叫喚の修羅場と化すクライマックスは痛快そのものだ。
持ち前の作風を活かしつつ、大ヒット作の続編というプレッシャー不可避の超大作を見事にモノにしてみせたJ・A・バヨナ。「弘法も筆の誤り」的な仕上がりになった『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』とは非常に近いシチュエーションから出発しながら、一線を画す作品になったと言えよう。本作で恐竜と人間世界の橋渡しを果たしたあと、続く『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022年)では、コリン・トレボロウが再び監督に復帰。さらに意表を突くかたちで展開する壮大なスケールの物語は、翌週の放送をお楽しみに。
■放送情報
『ジュラシック・ワールド/炎の王国』
日本テレビ系にて、5月24日(金)21:00〜23:14放送 ※放送枠20分拡大
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
監督:J・A・バヨナ
脚本:コリン・トレボロウ&デレク・コノリー
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、ジャスティス・スミス、イザベラ・サーモン、ダニエラ・ビネダ、ジェフ・ゴールドブラム、B・D・ウォン、ジェームズ・クロムウェル、レイフ・スポール、テッド・レヴェン、トビー・ジョーンズ、ジェラルディン・チャップリン
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