『虎に翼』や『光る君へ』が描く“地獄”を歩む女性たち 社会を切り取るNHKドラマの真髄

 NHKで放送中のドラマ『光る君へ』、『虎に翼』、『燕は戻ってこない』の3作には共通項がある。ひとつは女性脚本家の手によるもの、もうひとつが“社会における女性の選択”にフォーカスを置いた作品であることだ。

 平安、昭和、令和とそれぞれの時代に生きる主人公たちの選択について考えてみたい。

 大河ドラマ『光る君へ』の主人公・まひろ(吉高由里子)は父・藤原為時(岸谷五朗)の影響もあり、幼い頃から学問が好きで文才もある。が、どれだけ才気に溢れていても厳然と存在する身分の壁は越えることはできない。幼なじみであり、互いに想い合っていた藤原道長(柄本佑)の正妻になることも叶わず、道長からの「妾(しょう)であっても一番に愛する、心はお前にある」との言葉を振り切って彼女は彼から離れる。

『光る君へ』写真提供=NHK

 その聡明さで一条天皇(塩野瑛久)さえ前のめりにさせるまひろでも、政治に女性が参加することなど叶わない時代。彼女は「身分の低い者でも実力さえあれば活躍できる社会」の実現を道長に託す選択をした。

 連続テレビ小説『虎に翼』で描かれるのは、女性として日本で初めて弁護士、裁判官、裁判所所長、それぞれを務めた三淵嘉子氏をモデルとした猪爪(のちに佐田)寅子(伊藤沙莉)が辿る人生だ。

『虎に翼』写真提供=NHK

 2回目の受験で高等試験に合格し、1年半の司法修習時期を経て晴れて弁護士となった寅子だが、未婚女性であることからことごとく依頼人に弁護を断られてしまう。そこで寅子は弁護士としての社会的地位の担保のために結婚をすると決意。心のどこかにあった花岡(岩田剛典)からのプロポーズを期待する気持ちが彼の婚約によって打ち砕かれた落胆や勢いもあったかもしれないが、当時“結婚した女性は無能力者”と判断される事例を散々見聞きしてきた寅子が結婚の選択をしたことは戦前・戦中の法曹界における女性の立場の脆弱さ、進出の困難さを如実に表している。

 では、ドラマ10『燕は戻ってこない』ではどうだろう。令和が舞台のこの作品においてはふたりの女性がある“選択”をする。

 ひとりは派遣社員のリキ(石橋静河)。病院の医療事務として非正規で働く彼女の手取りは14万円。古びた暗いアパートに住み、手作りの弁当を携え通勤手段は自転車。同僚のテル(伊藤万理華)と好きなものを買って食べるコンビニランチがたまの贅沢だ。北海道に暮らしていた頃イメージしていた東京の生活とはまるっきり違う日々。

『燕は戻ってこない』写真提供=NHK

 ある日、卵子の提供で金を稼ごうとテルから持ち掛けられたリキは、アメリカの生殖医療エージェント「プランテ」日本支社で面談を受け、代理母にならないかと勧誘される。基本の成功報酬は300万円。子どもを欲する元バレエダンサーの草桶基(稲垣吾郎)、イラストレーターの悠子(内田有紀)夫妻との面談をセッティングされたリキは1000万円の報酬を提示し代理母となる選択をした。

 一方、悠子もバレエダンサーとしての草桶家の遺伝子を残したいと強く望む基の意を受け代理母出産を受け入れる選択をする。元は不倫から始まった恋だったが、悠子は子どもを産むことが叶わなかったからだ。

関連記事