長谷川博己に魅了される3カ月間になる 『アンチヒーロー』明墨正樹と重なる“不思議”さ

「人、殺したんですか?」

 弁護士・明墨正樹(長谷川博己)が接見室である人物に語りかけている。明墨は、殺人犯として生きる過酷さをとうとうと語り、最後に「私があなたを無罪にして差し上げます」と伝えた。

 放送前まで詳しい情報がシャットアウトされていたTBS日曜劇場『アンチヒーロー』の冒頭シーンである。時間にして3分半。この長谷川の圧巻のひとりしゃべりで、“最後まで見届けよう”と決心がついた。

 同ドラマは、物語の展開はもちろん、弁護士の赤峰柊斗(北村匠海)、紫ノ宮飛鳥(堀田真由)ら明墨法律事務所メンバーのバックボーン、これから対峙するであろう検察官・緑川歩佳(木村佳乃)や検事正の伊達原泰輔(野村萬斎)の半端ないラスボス感など、触れたいところは多々あるが、最初に語るべきは、やはり惚れ惚れする明墨のキャラクターであろう。ダークな主人公として満点を差し上げたいほど、とにかく彼に魅了された。なんだあの人は! 

 ただ……混乱したのも事実である。

 犯罪の証拠が揃っていても無罪を勝ち取るという明墨。被告人の緋山啓太(岩田剛典)を弁護する法廷のシーンでは、証言者・尾形仁史(一ノ瀬ワタル)が秘密にしていた病気まで明かして、証拠をなきものとした。激怒した尾形に「私は人の病気をさらしてでも勝ちたいんですよ。それが私の仕事なんです!」と吐き捨てたものの、最終的に彼に助け舟を出した。冷酷な人間のように見えるが、慈愛の心も持ち合わせているのか? 検察側に利用された尾形を救おうとしたのか?

 また、普段は“喜”や“楽”といった感情を表に出さない明墨だが、紗耶(近藤華)という女の子と電話をするときだけは、笑顔や柔和な表情を見せている。彼本来の姿はどこにあるのか?

 第1話終了時点で明墨のことがまったく分からなくなった。完全な悪者ではなさそうだし、完全な正義というわけでもなさそう。そもそも正義と悪は表裏一体なのか? 彼をカテゴライズすること自体がナンセンスなのか? 明墨のことを考えれば考えるほど“不思議”な人物だと思った。

『はい、泳げません』本予告

 そんな明墨を演じる長谷川は、これまでにも映画化された人気ドラマ『セカンドバージン』(NHK総合)をはじめ、北村も生徒役で出演した『鈴木先生』(テレビ東京系)、高視聴率を獲得した『家政婦のミタ』(日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説『まんぷく』、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』など、数多くの作品に出演。どれもが語りたくなる名作で、例えば、長谷川の狂気的な演技が話題となった『MOZU』シリーズ(TBS×WOWOW)では、クセのあるキャラの魅力にどっぷり浸かったし、泳げなくて屁理屈ばかりこねる男・小鳥遊雄司を演じた映画『はい、泳げません』(2022年)では、コミカルなシーンもありながら、後半は……と、その展開に涙が止まらなかった。

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