森田想がクリームソーダから拳銃が似合う俳優へ 小路紘史監督『辰巳』に打ちのめされた
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は拳銃が絶対に似合わない石井が小路紘史監督作『辰巳』をプッシュします。
『辰巳』
『ケンとカズ』の衝撃から約8年、ついに小路紘史監督の新作がやってきました。タイトルは『辰巳』。また名前のみのシンプルパターンですが、これが恐ろしいぐらいにカッコいいし合っている。小路監督を中心としたスタッフ・キャスト陣の並々ならぬ気迫を感じます。
毎熊克哉、カトウシンスケ、藤原季節の現在の引っ張りだこぶりが示しているように、『ケンとカズ』は間違いなく彼らが“発見”されるきっかけとなった一作でした。地方都市の寂れた場所で、希望が見えづらい明日に向かって淡々と生きている姿。巧みな編集やショットの切り取り方から紛うことなき劇映画にもかかわらず、そこに映る人物たちはドキュメンタリー映画かと思うほどの実在感がありました。覚醒剤を打って惚ける表情などは、本当にそうなっているようにしか見えず、こんな映画を撮る監督は一体どれほど怖い人なんだと思ったものです。
が、実際にお会いして話した小路監督は、映画からはまったく想像できないような優しいオーラに包まれた方でした(前職最後の仕事が『ケンとカズ』小路監督インタビューでした)。『ケンとカズ』をきっかけにたくさんのオファーが舞い込んだことが想像できますが、あくまで自主製作のスタイルを選び、本当に自分が作りたいものを作りきった『辰巳』。“安定”とは逆行するスタイルだと思いますが、そこまでしなければ表現できない魂の叫びが『辰巳』には刻まれています。
「希望を捨てた男と復讐を誓う少女が辿る、前代未聞のジャパニーズ・ノワール」。これが本作のあらすじを端的に示したキャッチコピーです。訳アリの男と少し年齢の離れた少女という図式は、『レオン』をはじめ数々の映画で題材にされてきました。恋愛でもなければ友情でもなく、親子愛のようなものでもない、言葉に表すことのできない関係性。繰り返しこの関係性が描かれるのは、多くの人が潜在的に持つ、なりたくてもなれない、もうひとりの自分が投影されるからなのかもしれません。