韓国ドラマのVFXはなぜすごい? 『寄生獣』『ムービング』のリアリティを支えた映像技術

 『寄生獣 ーザ・グレイー』に限らず、韓国コンテンツはとにかく視覚表現に力を注いだ作品が多い。ディズニープラス史上最大級の制作費で制作されたSFヒーローアクション『ムービング』は、超人的な能力を持つ登場人物たちが繰り広げるバトルシーンの見ごたえも充分だったが、魅力はそれだけに留まらない。たとえば飛行能力の使い手で国家安全企画部の工作員ドゥシク(チョ・インソン)が、のちに夫婦となるエリート要員ミヒョン(ハン・ヒョジュ)とキスするシーンのロマンチックなムードも、視聴者の心を鷲掴みにした。

 『ムービング』は全20話というエピソード数で、超能力を持つ主人公たちによるアクションジャンルであるだけに、視覚効果のために大規模な資本と人材が投入された。視覚効果を担当したのは、eNgine VISUAL WAVEだ。ヨン・サンホ監督のNetflix映画『JUNG_E/ジョンイ』(2023年)や、災害発生後の世界を見事に表現した『コンクリート・ユートピア』(2022年)など、映画でのVFXを手がけることが多かったが、VFX総括スーパーバイザーも兼任するイ・ソンギュ代表によれば、最近のブロックバスタームービーが約2000ショットほどのCGを必要とする一方で、『ムービング』に必要だったのは既存の映画作品の4倍に達する分量のCG作業だったという(※2)。

『ムービング』©2023 Disney and its related entities

 イ・ソンギュ代表曰く、『ムービング』はマーベルのように空を飛び、怪力で敵を倒すキャラクターが登場するが、求められたコンセプトは韓国式ヒーロー、あるいは生活密着型ヒーローだった。登場人物たちが空中に浮かび上がったり空を飛び回ったりするモーションについて、制作陣は既存の物理的な制約を克服しつつ、どうすれば自然に見えるか、視覚効果のみならず特殊効果、アクションなど各パーツのすべてのスキルのバランスで作り上げた。

 難関はワイヤーアクションだった。ワイヤー装置を取り付けた俳優たちが上手くコントロールすることが名演の秘訣だが、以前手がけた作品では実装する際にノウハウ不足があった。これを克服してクオリティを高めるため、製作スタッフは俳優のパフォーマンスを裏付けるワイヤーの数やグリーンマン(俳優単独では不可能な動きをサポートする、合成用のグリーンタイツを着て人や物を持つスタッフ)の数を増やした。さらにポストプロダクションでも多くの時間と人材を投入し、これら撮影素材をCG処理する高度な過程を経ることで完成させていった。

『ムービング』©2023 Disney and its related entities

 『ムービング』は各制作チームの協力だけでなく、俳優たちのデジタルダブル(特定の人物を元にコンピュータで作った複製物)を制作することで、ストーリーテリングの力を最大限まで引き上げた。デジタルダブルは、以前より韓国でも発展しつつある技術だったが、プロジェクトの性格や予算上の問題などで十分に活用できる場がなかったそうだ。『ムービング』の視覚効果チームは劇中の主要人物のデジタルキャラクターをすべて制作することに決め、俳優たちのフェイシャルスキャンとフルボディスキャンを通じてキャラクターのデータを構築した。『ムービング』のエモーショナルなシーンは、潤沢な予算が適材適所に使われたことで成功したということだ。

 ではなぜ、韓国ドラマではここまで視覚表現のリアリズムにこだわるのだろう。やはり、本物の表現と演出があってこそ、俳優たちの本物の感情が宿るからではないだろうか。『イカゲーム』のイ・ジョンジェは、2023年に日本公開もされた自身の初監督作品『ハント』でのこだわりについて、「偽物のように見えるのがとても嫌だったんです」と、シーンのリアリズムの重要さを力説した(※3)。

 また、ディズニープラス『カジノ』で主演を務めたチェ・ミンシクも、とにかく“本物”を追求する役者だと言われている。「アクションシーンは、本物に見えないことが最も良くない」と話す彼は、かつて主演映画『悪いやつら』(2012年)の撮影中、大先輩を殴る蹴るシーンの多さに気後れする後輩俳優たちに向かって「サッカーボールだと思って思い切り蹴るんだ!」と促したというエピソードがある。

 韓国ドラマの重厚なVFXは、ただ見かけのダイナミズムにとどまらない。ストーリーの力を増幅させ、俳優の演技をより強く羽ばたかせてくれる翼となるのだ。

参考
※1. https://kstar.kbs.co.kr/list_view.html?idx=311430
※2. http://magazine.kofic.or.kr/webzine/web/sub/trend.do
※3. https://moviewalker.jp/news/article/1159422/

■配信情報
Netflixシリーズ『寄生獣 -ザ・グレイ-』
Netflixにて配信中
原作:岩明均『寄生獣』(講談社)
監督:ヨン・サンホ
脚本」ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ
出演:チョン・ソニ、ク・ギョファン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・イングォンほか
制作:Climax Studio、WOWPOINT
©︎岩明均/講談社

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