『ブギウギ』料理描写の変遷を振り返る “おかずの品目”は社会の写し鏡に
続いて舞台は東京へ。梅丸少女歌劇団(USK)に入団したスズ子が、東京の梅丸楽劇団から視察にやって来た演出家の松永(新納慎也)に誘われ、秋山(伊原六花)と共に上京する。ここでは新たに下宿屋の主人・チズ(ふせえり)が登場し、チズの夫・吾郎(隈本晃俊)と共に食卓を囲むシーンがたびたび描かれてきた。印象的だったのは初稽古で疲れ切ったスズ子と秋山のために、元力士の吾郎がちゃんこ鍋を振る舞ったシーン。野菜とイワシのつみれの入った鍋を豪快につつきながら団欒する姿に、昭和らしい家族の温かみが溢れていたように思う。このシーンは広里が50匹のイワシを捌いて作ったことが明かされており、手間暇をかけて丹念に仕込んでいた愛のある料理だ。そして羽鳥家をスズ子が訪れたシーンではすき焼きが登場。当時は第一次世界大戦が始まり、日本も安泰ではいられない状況の中で、すき焼きが登場する羽鳥家の裕福な家庭事情が垣間見える。
だが、戦況が悪化していく中で食生活にも変化が現れる。一汁一菜の食事からたまご入り雑炊だけの食事になり、「福来スズ子とその楽団」で巡業に行った際にはスズ子と愛助(水上恒司)、小夜(富田望生)の3人でじゃがいもを食べる描写も描かれた。作中ではおいしくなさそうに食べていた野草ご飯はヨモギのほかにもキクナとツルムラサキを混ぜて作られたそうで、実際に趣里、水上、富田もおいしく食べたそう。だが、強調しておきたいのは、当時は雑炊やじゃがいもですらも豪華な食事であったということ。じゃがいもを3人で頬張る姿からは当たり前の食事ができる現代のありがたみをひしひしと感じた。
戦後はだんだんと食料も豊富になっていき、品数も増えていった。梅吉の危篤を知り香川へと戻ったスズ子と愛子(小野美音)。ここでは香川名物のカンカン寿司が登場し、食事にも戦後からの回復の兆候を感じられた。カンカン寿司とはすし箱にすし飯を詰めた後に、その上にサワラを並べて蓋をして木枠をくさびで打ち込んで作られる。その音がカンカンと聞こえることから名前がついた香川県では江戸時代から伝わる郷土料理。香川に生きる人々の生活が食事からリアルに伝わってくる。
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大正から昭和中期までのスズ子の半生を描いた『ブギウギ』。そこに登場する食事はその時代の社会の写し鏡であると同時に、現在との対比にもなっているのが興味深い。残りわずかとなってしまったが、改めて食事風景にも注目してみてはいかがだろうか。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2020/01/post-477101.html
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie