『春になったら』に『不適切にもほどがある!』も “余命もの”作品はいつから増えた?

 ここで一旦、冒頭の前提に戻り、もうひとつの“人生讃歌”パターンのほうを辿っていきたい。こちらは最近イギリスでリメイク版も製作された、黒澤明監督の『生きる』が先駆的な存在だろうか。こちらでも戦後社会における“生きる意味”と“死”についての思案が展開するのだが、戦中を生き抜いてきた世代が主人公ということで前時代を省みるようなニュアンスが強くある。いずれにしても、死と隣り合わせでなくなった世界でも不治の病には抗えないという点は“純愛もの”と“人生讃歌”が同一のジャンルのなかに存在していることを証明している。

『生きる LIVING』©Number 9 Films Living Limited

 こちらの潮流に沿った作品は日本でもいくつか作られてきたが、どちらかといえば海外で目立つ。これはお国柄というやつだろうか。象徴的な作品としては、青年2人が「海を見たい」と考え最期の旅へと出発するドイツの『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』や、20代の女性がやり残したことを実行する『死ぬまでにしたい10のこと』、病に屈することなく人生を充実させようとする『50/50 フィフティ・フィフティ』。そして忘れてはいけないのは、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが共演し、数年前に日本でもリメイクされた『最高の人生の見つけ方』である。

『最高の人生の見つけ方』©2019「最高の人生の見つけ方」製作委員会

 そもそも“純愛”にしても“人生讃歌”にしても、往々にして主人公なりその身近な人物が死に至る結末が待ち受けるということが目に見えている。そうなるとどうしたってストーリーの大枠は同じであるし、昨今のネタバレを忌避する傾向と逆行せざるをえない。それでも作り続けられるのは、結局のところ“死”というものが誰にとっても避けられないものであり、健康に生きていればほとんどの場合それを見落としてしまいがちだということ。また、どんな時代どんな文化圏、どんな人であれ積極的に生きる権利があるということも見落とされがちであるということがあるのだろう。確かにパターンが決まった作品は作りやすいし、泣かせる映画にすれば興行的な成功もしやすいというのも一理あるだろうが、当然そこには先ほど戦後や震災というキーワードを挙げたように、その時代に即した描き方が求められていくわけだ。

 2020年代に入ってからは新型コロナウイルスのパンデミックがあり、ウクライナやパレスチナでの戦争があり、社会情勢も経済情勢も極めて不安定で、“生きる意味”と“死”について誰もが思いをめぐらさざるを得ないシチュエーションに包まれている。かつSNSなどの発展によって希薄なくせに断絶が難しいこんがらがった人間関係が普通になったせいで、別れというものが“死”をもってしか訪れなくなっている。こうしたことが、“余命もの”に限らずあらゆる作品づくりの背景に影響を与えている世の中である。

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 だからこそ先述のように『生きる』のリメイクが作られて『春になったら』のようなドラマが作られ、それこそ『不適切にもほどがある!』(TBS系)も、主人公が震災で亡くなる未来を知った今、“余命9年”をどう生きるかという物語になりつつある。そして現代の『愛と死をみつめて』ともいうべき『余命10年』が登場しヒットを記録し、“純愛もの”であっても余命宣告を受けるのはヒロインだけではないという当たり前のことに立ち返るような『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(Netflix)が控えていたり。“余命もの”の必需性は、これまでで最も高まっているのかもしれない。

■放送情報
『春になったら』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:奈緒、木梨憲武、深澤辰哉、見上愛、西垣匠、影山優佳、矢柴俊博、光石研、橋本マナミ、筒井真理子、小林聡美、濱田岳
脚本:福田靖
音楽プロデューサー:福島節
主題歌:福山雅治「ひとみ」(Amuse Inc. / Polydor Records)
監督:松本佳奈、穐山茉由
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
音楽プロデューサー:福島節
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト: https://www.ktv.jp/haruninattara/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/haru_ktv
公式Instagram:https://www.instagram.com/haru_ktv/

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