『i ai』富田健太郎×堀家一希対談 マヒトゥ・ザ・ピーポーと作り上げた“現実を超えた虚構”
“好き”で全部を越えていくバンドの魅力
ーー『i ai』は虚実が混ざっているというか、まさに境界線がなくなるような感覚もあります。撮影していて楽しかったシーンは?
堀家:バンドのメンバーと部屋でパーティしている場面ですね。4人でピザ食って、ビール飲んで、花火して。部屋のなかがすごい匂いになってました(笑)。
富田:(笑)。ピザとビールに火薬の匂いが混ざって。
堀家:撮影の最終日だったんですよ。
富田:そうそう。それまで悩みとか葛藤もあったんですけど、このシーンは「楽しもう!」って感じになって。THIS POP SHITのメンバーと一緒のシーンは全部楽しかったですね。
堀家:演奏シーンとかね。
富田:そうそう。クランクインして最初のシーンが、メンバーと一緒に屋上で音をかき鳴らす場面だったんです。撮影が終わったときに、近くの海辺にいた子供たちが「アンコール、アンコール」って言ってくれて。「え?」と思ってそっちを見たら、少年たちが手を繋いで「もっとやって」って。
堀家:急遽、もう1回やろうと。
富田:全然バンドに慣れてなくて、本当に組んだばっかりだったんですけど、アンコールをもらった瞬間、シビれちゃって。「バンドって最高じゃん!」って身体で思いました(笑)。
堀家:そうだね。安直だけど「バンドやりたい」って。
富田:じつはギターをちょっと練習してたことがあって、バンドやりたいなと思ったこともあるんですよ。でも、それこそGEZANのライブを観ると「簡単な気持ちでやっちゃダメだな」と。
ーーTHE POP SHITもそうですけど、勢いで始められるのもバンドの魅力だと思いますけどね。
富田:確かに。“好き”で全部を越えていくというか、上手いとか下手とか関係ない根底の魂の叫びという感じもありますよね。THE POP SHITのメンバーとも撮影前に何回かスタジオに入ったんです。でも、実際に撮影がはじまったら「これはもう気持ちでいくしかないな」と。脚本にもそういうメッセージが込められていると思ったし、このバンドにしか出せない良さ、鮮度があるんじゃないかなと。
堀家:映画じゃなくて、THE POP SHITの話になってるけど大丈夫そう?
富田:堀家と一緒だと、撮影の時に戻ってバンドメンバーと話してる感じになっちゃうのかもしれない。
『i ai』は虚構が事実を越えてくる瞬間がある
ーー完成した『i ai』を観たときはどんなことを感じましたか?
堀家:最初に言ったように(脚本を読んだ段階では)どういう映画になるのか想像できなかったし、モヤモヤした感じがあったんですが、完成した映画を観たときは頭をガーンと殴られた感覚がありました。自分の小ささを知ったというか、「こんなに大きいものに挑んでいたのか」と。自分自身の反省点も含めて、ドカーンと一発デカいのを食らいました。
ーー大きな衝撃を受けた、と。
堀家:そうですね。映画館で観てくださる方もたぶん、デッカイのを食らうんじゃないかなと。「このセリフが」とか「このシーンが」とかもちろん人によっていろいろあると思うんですけど。
富田:食らうよね。僕自身はまず、明石とか神戸で過ごした時間が一瞬で戻ってくる感じがあって。映画は基本フィクションじゃないですか。『i ai』は虚構が事実を越えてくる瞬間があるんですよね。こんなにも生々しさを感じる映画に、僕自身もこれまで出会ったことがなかったんですよ。そういう意味でも堀家が言った「頭を殴られる感じ」というのもよくわかります。ただ、簡単に言葉にすることができなくて。
堀家:うん。
富田:生と死だったり、霊性を帯びているところもありますからね。現実なのか虚構なのか、その微妙で曖昧なところを行き来するなかで、観ている人も“自分”という存在がそのなかに入り込んでしまうような映画だと思います。
ーー最後のコウの独白によって、「これはあなたたちのことなんだ」という気持ちにさせられます。
富田:スクリーンから出てきちゃってますよね。
堀家:劇場で上映のたびに本当にスクリーンから出てきちゃえば?
富田:(笑)。あの場面は「コウなのか富田健太郎なのか」という感覚もあって。オーディションのときは「自分の解釈が合ってるんだろうか?」と思ってたんですが、THIS POP SHITのメンバーとの日々、ヒー兄との日々、いろんな景色や感情が自分のなかに入ってきて、独白の言葉の意味合いが変わっていったんです。結局答えは出てないんですけど、あの一瞬に出てきたものがすべてなんだろうなと。
ーーラストシーンのすごさは、ぜひ映画館で味わってほしいと思います。『i ai』はまだ何者でもなく、衝動やエネルギーだけが渦巻いている若者を描いた映画でもあると思います。お二人はそういう経験をしたことはありますか?
堀家:今でもありますね、それは。「こういう役をやりたい、こういう芝居をしたい、こういう作品に出たい、こういう監督とやりたい」というのはいくらでもあるんだけど、もちろんなかなか叶わなくて。だけど「何とかしたい」という強い気持ちがずっとあって……今も昔もそれは同じですね。
富田:わかる。始めたときは真っ新な状態だし、無限の景色が広がってたんだけど、(役者としてのキャリアを重ねるにつれて)どんどん具体性を帯びてきて。
ーー現実が見えてくる?
富田:そうですね。それでも続けられるのは、ギラついた部分があるからだと思うんです。そういうふうに生きていたいと思うし、『i ai』の撮影中もずっとそうでしたね。役者って面白くて、「はい、今からこの役です」と言われてパン!と切り替えられるほど器用な動物ではない気がするんです。どうしても普段の個人としての時間で感じたことも出てくるし、ずっと試されているような感覚もある。だからこそ衝動やエネルギーが必要。それは役者に限らず、誰にでも当てはまることだと思っていて。それぞれ職業や環境は違っても、模索して、足掻きながら進んでるはずだし、だからこそ『i ai』のストーリーはいろんな人に刺さると思うんです。詩的なセリフや映像を含めてアートの要素もかなり入ってるけど、それは何も難しいことではなくて。生と死、出会いと別れもそうだし、普遍的なテーマを持った映画なのでいろんな人に観てほしいです。
■公開情報
『i ai』
渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開中
出演:富田健太郎、森山未來、さとうほなみ、堀家一希、イワナミユウキ、KIEN K-BOMB、コムアイ、知久寿焼、大宮イチ、吹越満、永山瑛太、小泉今日子、森山未來
監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影:佐内正史
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective 「Third Summer of Love」(十三月)
劇中画:新井英樹
プロデューサー:平体雄二、宮田幸太郎、瀬島翔
配給:パルコ
製作プロダクション:スタジオブルー
2022年/日本/カラー/DCP5.1ch/119分
©STUDIO BLUE
公式サイト:https://i-ai.jp/
公式X(旧 witter):https://x.com/iai2022
公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/