『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は“ガンダムという呪縛”を解き放つ一作に

 他にも過去のガンダムシリーズにも登場したズゴックが活躍するなど、『SEED』シリーズ以外からの踏襲も忘れていない。また過去のガンダム以外のサンライズ作品の面影も随所に見られた。

 同時に、“ガンダムという呪縛からの解放”という意味でも「フリーダム」という言葉は当てはまっている。今作のオリジナルキャラクターのアグネス・ギーベンラートが象徴的な存在であり、彼女は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場するクェス・パラヤをモチーフにしているのではないかと推測できる。クェスもアグネスも他者に依存気味の女性であり、苛烈な性格によって他者を翻弄してしまう性質を持っている。そしてこういったキャラクターは、えてして最期は過酷な運命を辿ってしまう。

 だが今作においてアグネスは、過去のガンダムシリーズで見受けられた同様の登場人物たちと異なるラストを迎える。ルナマリア・ホークという同性の女性と屈託のない意見を交わし合い、そして手を差し伸べることで作品は終える。ここには他者、特に恋愛対象となる異性に依存するのではなく、同性の友人と手を取り自立していく姿がうかがえる。アグネスの声優を務めた桑島法子も、『SEED』シリーズでは重要な役を多く演じているが、苛烈な最期を辿ることが多かった。今作のラストからは、アグネスというキャラクターと、桑島法子という声優が『SEED』シリーズで抱えたお約束の宿命から解放された作品になったと言えるだろう。

 同時に、もしかしたら観客もまた“ガンダムらしさ”に縛られすぎていたのかもしれない。この“ガンダムらしさ”という言葉は、便利でありながらも定義がなく、一体何を指しているのかは人によって異なるのにも関わらず、ファンの中ではふんわりとした認識で存在している言葉だ。人によってはモビルスーツの戦闘であるかもしれないし、キャラクターの関係性、あるいは人間を描いたドラマ性、不戦のメッセージ性と答えるかもしれない。

 近年では『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のように、宇宙世紀のガンダム作品がヒットを記録。一方で“学園もの”の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も放送された。その中で「ガンダムとは何か?」ということを、筆者は度々考えている。

 しかし、本来ガンダムとはもっと自由であってもいいのかもしれない。『機動武闘伝Gガンダム』や、プラモデルを扱った『ガンダムビルドファイターズ』も、ガンダムの名を冠する作品だ。特に『機動武闘伝Gガンダム』は従来のガンダムのイメージとは一風変わった作品ではあるが、だからこそその枠組みを超え、ガンダムシリーズの可能性を大きく広げた。令和の今だからこそ、そのような作品が必要であり、そしてそれが今作になるのではないだろうか。

 最後に、書き手の特権として、さらなる続編や番外編があれば是非ともお願いしたいことを1つ挙げさせていただきたい。今回は出番が少なかったアンドリュー・バルトフェルドのコーヒーのうんちくシーンを是非とも観たいのだ。あの頃、カッコいい大人の仕草として鑑賞していた身としては、変わらない姿をもう一度。

■公開情報
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』©創通・サンライズ
全国公開中
声の出演:保志総一朗(キラ・ヤマト)、田中理恵(ラクス・クライン)、石田 彰(アスラン・ザラ)、森なな子(カガリ・ユラ・アスハ)、鈴村健一(シン・アスカ)、坂本真綾(ルナマリア・ホーク)、折笠富美子(メイリン・ホーク)、三石琴乃(マリュー・ラミアス)、子安武人(ムウ・ラ・フラガ)、関 智一(イザーク・ジュール)、笹沼 晃(ディアッカ・エルスマン)、桑島法子(アグネス・ギーベンラート)、佐倉綾音(トーヤ・マシマ)、大塚芳忠(アレクセイ・コノエ)、福山 潤(アルバート・ハインライン)、根谷美智子(ヒルダ・ハーケン)、楠 大典(ヘルベルト・フォン・ラインハルト)、諏訪部順一(マーズ・シメオン)
監督:福田己津央
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
脚本:両澤千晶、後藤リウ、福田己津央
キャラクターデザイン:平井久司
メカニカルデザイン:大河原邦男、山根公利、宮武一貴、阿久津潤一、新谷学、禅芝、射尾卓弥、大河広行
メカニカルアニメーションディレクター:重田智
色彩設計:長尾朱美
美術監督:池田繁美、丸山由紀子
CGディレクター:佐藤光裕、櫛田健介、藤江智洋
モニターワークス:田村あず紗、影山慈郎
撮影監督:葛山剛士、豊岡茂紀
編集:野尻由紀子
音響監督:藤野貞義
音楽:佐橋俊彦
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス、松竹
©創通・サンライズ

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