『おっさんずラブ』なぜ私たちは牧に感情移入してしまうのか 林遣都が見せる心の揺れ動き

 守りたい、その笑顔。『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)の牧(林遣都)を観ていると、そう思わずにはいられない。ドライな言い方をすれば、あくまでも架空の人物であるにもかかわらず、だ。それほどまでに感情移入してしまうのは、林遣都の演技に、牧の心の揺れ動きを観る人に追体験させる魔力があるからではないだろうか。

 筆者が初めて林の存在を認識したのは、俳優デビュー作である映画『バッテリー』。当時、幼いながらに、スクリーンで孤高の天才球児役の林を見て、「こんな漫画でしか見たことのない儚げな美少年が現実に存在するんだ」と衝撃を受けたのを覚えている。あれから17年、あの頃の透明感はそのままに色気を兼ね備えた大人の男性に成長した林。近年の出演作でいえば、『教場』(フジテレビ系)や『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、『愛しい嘘〜優しい闇〜』(テレビ朝日系)などで演じた役柄が印象深く、どの作品にも着実に磨き上げられてきた林の演技力が大いに発揮されるシーンがあった。

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 特に、『おっさんずラブ-リターンズ-』第4話でも名前が出てきた『VIVANT』(TBS系)でテロ組織テントのリーダー“ノゴーン・ベキ”こと、乃木卓(役所広司)の青年期を演じ、その壮絶な過去を体現した林に圧倒された人は多いだろう。かつて公安警察の一員として、民族間の対立や紛争が続く中央アジアのバルカ共和国で一般人に紛れて諜報活動を行っていた卓。しかし、現地の武装集団に追われる中で公安に見捨てられ、卓は拷問を受けた上にともに拘束されていた妻を失う。解放されたのちに、やっとの思いで生き別れになった幼い息子の形跡にたどり着くも「その子は亡くなった」と伝えられた。それらは全てフィクションだ。けれど、林の迫真の演技で、卓の経験した焦りや痛み、哀しみがまるで自分自身も味わったかのように伝わってきて、自然と手から汗、目からは涙が溢れてきた。

 かたや、林が『おっさんずラブ』で生きる世界は平和だ。恋人から家族になった春田(田中圭)と牧をはじめ、誰かを大切に思うがゆえにジタバタしてしまう大人たちの姿におかしみが溢れている。ハイテンションなキャラクター揃いの中で牧は最も常識人といえるが、要所に林のコミカルな演技が光り、特に会社の元上司である黒澤(吉田鋼太郎)と嫁姑のようなバトルから「叩いて被ってじゃんけんぽん」対決に発展していく場面には大いに笑わせてもらった。だが、こうした笑いは真面目なテーマの上に成り立っている。前作は、「人を好きになるとはどういうことか」について真摯に描いた。

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