水上恒司は“目”で愛を表現する 新たな代表作となった『ブギウギ』愛助を生き抜いて

 名は体を表すという。

 『ブキウギ』(NHK総合)の愛助(水上恒司)はその名の通りスズ子(趣里)を愛し、助けとなった人生だった。

 初登場は第11週。当時は、弟・六郎(黒崎煌代)の死の直後で、スズ子も、物語も、深い悲しみの底に沈んでいた。そんな中現れた愛助は、素朴かつ純情な雰囲気で瞬く間に作品世界の色を塗り替えた。出演期間はわずか2カ月ながら、たくさんの人に愛された愛助。その魅力を、演じた水上恒司の演技を軸に振り返っていきたい。

進化を感じさせた水上恒司の台詞回し

『中学聖日記』は「なりたい自分」を模索する物語だった 有村架純×岡田健史の名演に寄せて

たとえ視聴率が芳しくなくても、ファンから一途に愛され続ける作品がある。どんなに時間が流れても、いつまでも語り継がれる作品がある。…

 水上恒司は2018年、『中学聖日記』(TBS系)で俳優デビュー(当時の芸名は岡田健史)。朝ドラは本作が初出演。デビュー6年目にして大きな成長を随所に感じさせた。

 もっとも進歩を遂げたのは台詞回しだろう。『中学聖日記』の頃は声の表情が硬く、どこかぎこちなかった。その青さが思春期特有のままならなさに転化し、唯一無二の魅力となって視聴者を虜にした。本人の持つ原石感と役柄がマッチした奇跡のキャスティングだった。

 あれから5年。愛助として登場した水上の台詞回しは、驚くほど表情豊かとなった。目の前に推しがいる。うれしさのあまり言葉がつまり、声は消え入りそうなほど小さい。けれど、スズ子の素晴らしさについて語りだすと、突然声にハリが出て、弁舌もなめらかになる。愛助の愛すべきオタク感を、登場からわずかのシーンで視聴者に印象づけたのは、水上の台詞回しだった。

 そこから初々しい「学生さん」だった愛助は、どんどん頼もしくなる。改めて観直すと、スズ子と付き合うまでと付き合ってからでは、愛助の声は別人のようだ。スズ子より9歳も年下ながら不思議と包容力を感じたのは、水上の台詞回しがあったからだろう。

 病弱な愛助を残し、巡業へ出ることをためらうスズ子を励ましたときも、空襲で焼け野原となった東京の街を見て、急いで家へ駆けつけたスズ子を迎えたときも、喜怒哀楽の激しいスズ子とは対照的に、いつも愛助は穏やかだった。愛助は、ゆっくりと、ひと言ひと言を噛みしめるように話す。普段よりブレスが多く含まれた声は、胸に沁み渡るように柔らかく響く。どんなときもスズ子を支える愛助の献身を、水上は声で表現した。

水上恒司の目が語る愛助の愛と翳り

 一方、デビュー期から変わらない魅力も愛助というキャラクターにしっかり反映されている。それは、目だ。水上恒司は目で語る俳優だ。愛助といえば、大きな黒目を爛々と輝かせる姿が特に印象に残っているが、それ以外にも多彩な目の表情を見せてくれた。

 特に象徴的だったのが、愛と翳り。愛助は、いつもいとおしそうにスズ子のことを見つめていた。たとえばまだ出会って間もない頃、汽車で乗り合わせた幼い娘のためにスズ子は「ふるさと」を歌う。その歌声によって、車内がたちまち郷愁のぬくもりで包まれる。乗客からの拍手を浴びるスズ子。それを、愛助は一心に見つめている。そのときの愛助の目は、恋におちた人の目だった。推しから恋へ。愛助の気持ちが変わった瞬間が、水上の目だけで伝わってきた。

 交際が始まってからも、愛助の目はどんどん愛情の含有量が増えていく。防空壕で歌うスズ子を見守るときも、サム(ジャック・ケネディ)との交際を反対するスズ子と小夜(富田望生)の仲を取り持ったときも、愛助は慈しむような視線を送っていた。その眼差しが、『ブギウギ』の幸福感を醸成していた。『中学聖日記』から大ヒット公開中の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』まで、ラブストーリーがよく似合うのは、水上恒司が目で愛を表現できる俳優だからだ。

 一方、『望み』や『死刑にいたる病』で片鱗を見せた翳りも、愛助というキャラクターを形成する大きな要素となっていた。そもそも水上自身は、元高校球児ということもあり体格がいい。体つきだけ見れば決して病弱そうには見えない。けれど、愛助はいつもどこか儚さをまとっていた。それは、水上が目で翳りを語っていたからだろう。

 それを最初に示したのが、学徒出陣の報を新聞で読んでいたとき。自分と同世代の学生が戦地へと駆り出されている。なのに、自分は病弱な体ゆえ安穏と暮らしている。その後ろめたさと不甲斐なさを、暗い眼差しが代弁する。目から溢れる色気に、思わず息を呑んでしまった。ただのスズ子のオタクだけではない、愛助のキャラクターに立体感をもたらした好演技だった。

 その翳りは病魔に蝕まれるほどに濃くなっていく。あんなに爛々と輝いていた瞳から光が失われ、青髭の生えた顔で力なく虚空を見つめる。気力を振り絞り便箋に筆を走らせるも、咳のせいで続かない。けれどそこにあるのは、迫り来る死への恐怖ではなかった。身重のスズ子のために何もしてやれない無力感を水上は体現し続けた。

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