『ポケモンコンシェルジュ』は“時代”を象徴する一作 “バトル”ではなく“癒し”を描く試み

 近年、世界で多くの人々が自宅にこもらざるを得ない環境下で、より躍進したといえるのが、映像配信サービスやゲーム業界だ。なかでも、Nintendo Switchのゲーム『あつまれ どうぶつの森』は、架空のスペースで生活を充実させていくというコンセプトで“癒し”をもたらし、世界中で楽しまれることになった。ゲーム、アニメなどの大ヒットシリーズ『ポケットモンスター』(ポケモン)を題材とした、Netflix配信のアニメシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』は、まさにそんなゲームや映像配信の時代を象徴する一作となっている。

 日本では1990年代より、「癒しブーム」が繰り返されてきたといわれるが、近年とくに“癒し”が必要とされている現状があるのかもしれない。最近も、漫画原作のTVアニメ『葬送のフリーレン』や、『新しい上司はど天然』などが支持されたように、困難を打開する戦いや刺激よりも、どちらかといえば過去の心の傷を癒し、心の平穏を目指す物語が提供されるようになってきたと感じられる。

 ゆったりとして自由で、大きな負担を感じずに人生を送っていく……。ことに経済状況が悪化し、老後に不安をおぼえる人が増え続けている日本では、かつて多くの国民が手にしていたはずの、安定的な生活や未来への安心感こそが、万人のささやかな理想になってきているのではないか。『ポケモンコンシェルジュ』は、現代の働く女性の日常の癒しを題材としていた、『リラックマとカオルさん』を手がけたスタジオ「ドワーフ」が、またしても同様の表現で、同じ層を対象に“癒し”を提供するのだ。

 「ドワーフ」は、NHKのマスコットキャラクター「どーもくん」をはじめ、「ストップモーション・アニメーション(コマ撮りアニメ)」の技術に優れたスタジオ。「ポケモン」という、より世界的なコンテンツを利用しながら、既存のポケモン作品とは違った「ドワーフ」テイストで、可愛さとアーティスティックな雰囲気が両立した雰囲気で進行していく。この点では、やはり『リラックマとカオルさん』のアプローチに近いが、求められる需要に対し、さらに精度を上げたかたちで対応しようとしていると感じられるところが、本シリーズの興味深いところだといえるのではないか。

 長く愛されている『ポケモン』シリーズは、いま、さまざまな年代に向けた商品展開がおこなわれている。とくに癒しを求めている、働く女性たちによる「リラックマ」の支持が安定して高かったことを考えれば、“かわいさ”や“癒し”の点を切り取って評価することもできる「ポケモン」もまた、子ども時代に「ポケモン」のゲームやアニメを楽しんでいた視聴者が多いなかで、現在は日々に追われるようになった大人の女性を惹きつけるポテンシャルがあることが注目されたのだろう。本作の主人公ハル(声:のん)が、ピカチュウのファンであるという設定からも、そのあたりの需要を掘り起こそうとする狙いが伺える。

 面白いのは、『ポケモン』シリーズの中心に置かれている“バトル”の要素が排除されているということだ。ポケモンたちは、むしろここでは、バトルの重圧から解放され、本シリーズの舞台となる南の島の「ポケモンリゾート」で、癒しの日々を送っているのである。現実の人々と同じように、ポケモンもまたストレスに日々さらされているのかと思うと辛いものがあるが、こういった社会観こそが、いま視聴者の目線に近いということなのだろう。

 「ポケモンリゾート」での「ポケモンコンシェルジュ」の仕事は、ポケモンたちの癒しや楽しみをサポートすることだ。新米コンシェルジュであるハルは、おっちょこちょいな性格ながら、持ち前のひたむきさによって、ポケモンたちのためにさまざまなアイデアを考え、それぞれの不安や悲しみに寄り添えるよう奮闘していくことになる。

 ここでは客の立場であるポケモンたちはもちろん、ハルの上司や頼れる先輩たちの優しい指導、リゾート地のゆったりした時間の流れ、過酷なノルマを課されない職場環境もまた、まさに現代の働く人々の理想の一つを表現しているといえる。裏を返せば、このような環境の逆の状態に苦しめられている人が、現実には多いということなのだろう。

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