『さよならマエストロ』が描く家族とコミュニティの再生 西島秀俊がかける音楽の魔法
極めつけはティンパニー奏者、内村菜々(久間田琳加)との会話だ。高校時代、自身のミスがきっかけで全国大会への出場を逃した菜々は、それ以来、音を出すのが怖くなってしまった。ベートーヴェン作曲交響曲第5番「運命」冒頭のフレーズが自分を責めているように聴こえる菜々に、俊平は「その解釈はとてもおもしろい!」と予想外の反応を示した。
誰もが知る有名な交響曲も見返すたびに新たな発見があると俊平は言う。否定のテーマから入る「運命」第1楽章。フレーズを反復しながら転調の契機をつかみ、内なる対話を通して肯定と否定を織り重ねていく。俊平は菜々の中に音楽への愛情を見出し、菜々も自身の原点を思い出した。俊平の言葉はまるで魔法のようで、俊平自身も心から音楽を楽しんでいた。けれど響だけは、そんな俊平を苦々しい思いで見つめていた。
響と俊平の関係は絶望的だ。思春期の娘や息子が親に反発するのはよくあることだが、20歳で社会人の響と俊平の間には修復不可能な断絶があって、どこから手をつければいいかわからない。響がこれほどまでに俊平を嫌悪する理由が5年前の事件にあることは確かで、俊平もそれがあって指揮棒を手放したにもかかわらず、いまだにその傷は癒えていない。娘の気持ちに寄り添おうとするがピントがずれている父親と、反発しながらもどこかわかってほしい気持ちがあり葛藤を持て余す娘のボタンのかけ違いを、西島秀俊と芦田愛菜が絶妙なさじ加減で演じている。怒りのオーラを発する芦田の芝居は、画面を超えて伝わってくるものがあった。
廃団が決まったオーケストラと壊れてしまった家族。運命の出会い/再会は、裏で手を引いている存在も示唆されて波乱含みだ。何はともあれ長男の海(大西利空)が言う「止まっていた時間」は動き出した。突然の転調に備えつつ、次週の第二楽章を待つことにしよう。
■放送情報
日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:西島秀俊、芦田愛菜、宮沢氷魚、新木優子、當真あみ、佐藤緋美、久間田琳加、大西利空、石田ゆり子、淵上泰史、津田寛治、満島真之介、玉山鉄二、西田敏行
脚本:大島里美
音楽:菅野祐悟
主題歌:アイナ・ジ・エンド「宝者」(avex trax)
撮影監督:神田創
音楽監修:広上淳一(東京音楽大学)
全面協力:東京音楽大学
企画プロデュース:東仲恵吾
プロデュース:益田千愛
演出:坪井敏雄、富田和成、石井康晴
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/sayonaramaestro_tbs/