『あなして』は2023年の代表作に 奈緒×岩田剛典×田中みな実×永山瑛太が見せた名演

 最終回のあとの特別編で、陽一とみちが別れて、再会するまでの空白の時間が描かれたとき、みちがマッチングアプリを介して知り合った男(野間口徹)によって、陽一が買ってくれた財布の真実がわかる。口がうまくないけれど、陽一はほんとうは優しいことを知っていたはずなのに、だんだんとおざなりになり、みちが陽一を傷つけていた面もあった。好きすぎてセックスできなくなる気持ち、好きすぎて求めずにはいられない気持ち、どちらもデリケートだし、相手に甘えすぎている。

 陽一の本音をわからないみちは、三島とのことを知ったとき、痛烈なショックを受けるのだが、仲良くなりすぎるとカラダの関係を逆に持ちにくくなることもあるようだし、三島に対する冷たすぎる陽一の態度を知れば、自分のほうが特別に思われていると安心できるのではないか、という気もするが、これもまた難しい問題で、精神的な優位も大事ながら、人はなぜか、肉体的接触に重きを置き、激しい嫉妬を燃やすことを止められない。楓は、自分から拒否しておきながら、誠とみちの関係に嫉妬を覚えるのも同じこと。このドラマは、誰と誰が結ばれるかというストーリー展開よりも、心とカラダの微妙な状態をアトラクションに乗るように楽しむことに向いている気がする。

 奈緒はものすごく赤裸々な人間の欲望を、下品にならず、かわいげのある範囲に留めながら演じて、親しみが持てた。永山瑛太は、極めて難しい、心とカラダが折り合わない苦悩を、重たくなり過ぎずに演じていた。岩田剛典は、先述したが、悪いところがこれっぽちもない、やさしくて家事も仕事もできる、穏やかで安定した人物を好演。岩田だからこそ、みちは誠と結ばれてほしいと思う視聴者を多く生み出した。奈緒と永山、奈緒と岩田、どちらの関係性も喜びも切なさも常にさざなみのように波打って、観る者の気持ちをざわつかせる、鮮度の高い演技だった。田中みな実は演技歴はほかの3人より浅いが仕事熱心な、サバサバした人物に清潔感があった。最終回の、岩田との場面はとても爽やか。とはいえ、ときおり出てきた色っぽいシーンは様式美を熟知したプロフェッショナルだった。

 筆者は、序盤から陽一とみちの住居が、急な坂の途中にあることに注目して見ていた。坂のアングルは、ふたりの関係が上がっていくのか下がっていくのかわからないように撮られていたが、最終回では、フラットなアングルになり、そこで、ふたりは座り込む。上がったり下がったりしていた夫婦の関係が平衡になったラストシーンは、画として悪くなかった。みちと陽一が影絵をする画もきれいだったし、画を見て、心を揺らすドラマだったと思う。こういう作品はスマホの小さい画面じゃなくて、大きな画面で観たいから、ソフトを買ったら、できれば大きなモニターで存分に楽しみたい。奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実の4人の揺らめく表情の陰影にも、改めてきっと見とれてしまうだろう。

■リリース情報
『あなたがしてくれなくても』
Blu-ray&DVD BOX発売中

○Blu-ray BOX[4枚組(予定)]
価格:31,020円(税込)
品番:PCXC-60110
本編559分+特典58分

○DVD BOX[6枚組(予定)]
価格:25,080円(税込)
品番:PCBC-61801
本編559分+特典58分

○収録内容
放送全11話+特別編+特典映像

○特典内容
【特典映像】
・クランクイン&クランクアップ
・岩田剛典 バースデー
・ポスタービジュアル撮影
・メインビジュアル撮影
・放送直前トークイベント
・奈緒&永山瑛太インタビュー
・ジャンボたかお撮影メイキング
・PR映像(ティザー・スポット)

出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
発売元:フジテレビジョン
販売元:ポニーキャニオン
©︎ハルノ晴/双葉社 ©︎フジテレビジョン
特設サイト:https://movie-product.ponycanyon.co.jp/item143/

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