『ブギウギ』何のために誰がために歌うのか スズ子がこれから背負うもの

 りつ子は全てがはっきりしている。警察になんと言われようと、“歌手”である自分を保ち続けるために自制しないし、来てくれる観客に向けた最大のパフォーマンスは彼らだけに対してではなく、自分が抱える楽団たちのために、そして自分自身のためのものだ。観客を満足させなければ、ショーの稼ぎが減ってしまう。そうなれば公演は打ち切られ、楽団を路頭に迷わせてしまうことになる。その責務を背負っているからこそ、りつ子は自発的なのだ。それに対して、注意を受けては言う通りにする受動的なスズ子は結局りつ子と正反対のことをすることで観客を不満にさせ、その結果守っていたもの(楽劇団)も失ってしまったのが皮肉である。結局誰のために、何を優先すべきなのか。その答えを、スズ子は喧嘩中の梅吉と腹を割って話したことで得ることになる。

「お前の歌、好きやった。聴いとると思うで。お前の歌、聴かせてやれや」

 スズ子にとって、歌う際の“誰のため”はこれまではっきりとした輪郭を持つことがなかった。漠然とお客さんを喜ばせるため、という気持ちはあったにせよ顔が浮かんでこないから、大多数に好かれようとして大人しい曲を歌いたがってもいた。しかし、梅吉が彼女に与えた顔……母の顔はスズ子に再び歌うモチベーションを上げるために十分だった。母が喜ぶ歌を歌う。その歌とは、つまりスズ子が楽しく自分らしく歌っているもの。りつ子のように“誰かのため”が回り回って“自分のため”にもなるような、自分が今やりたいパフォーマンスをする。その気持ちに目覚めたスズ子は、早速楽団を結成しようとしていた。私もステージの端から端まで踊り尽くす、楽しそうなスズ子が早く観たい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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