『ブギウギ』何のために誰がために歌うのか スズ子がこれから背負うもの
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第9週「カカシみたいなワテ」では、日中戦争が開始され、“ぜいたくは敵だ”のスローガンを掲げる社会は梅丸楽劇団(UGD)にキツく当たった。警察からは厳しい舞台上の演出、言葉遣いの指導が入り、スズ子(趣里)は自由を失った。身につけるメイクも服も、派手なものは罰せられる。アイコニックなつけまつ毛をハサミで短く切るスズ子は、途方に暮れていた。
ツヤ(水川あさみ)の死から1年後、“迷子”になっていたのはスズ子だけじゃない。喪失感から酒浸りになってしまった梅吉(柳葉敏郎)もどうしようもなくなっていた。そんな彼に苛立ち、何もかもがスズ子にとって辛い状況になっていく。そこで彼女が向き合わなければならなかったのが「何のために歌うか」という問いである。
警察には派手にステージを動くことを禁止されたが、観客は三尺四方の中でおとなしく歌うスズ子を観たいわけではない。スズ子だって、本当は激しく歌って踊りたい。しかし、楽劇団の存続のために警察の要求を飲むしかなかった。そんな渦中に彼女の元を訪れたのは、田舎出身の小夜(富田望生)。
歌手として、福来スズ子としてどうしたらいいかわからないのに、弟子なんて構っていられる余裕なんてないはず。それでもその人柄から一度は小夜を受け入れ、自分の下宿先にも招いたが彼女は梅吉を「お父ちゃん」と呼んだり、歌手になりたいと言っていたのに“六郎(黒崎煌代)のお嫁さんになるのが夢”だとか言い出したりする。特に六郎に関しては生死もわからない状態であり、なんとも無神経な発言とスズ子の気持ちを逆撫でするような態度が観ているこちらにも辛かった。公私ともに思うようにはいかず、疲弊していくスズ子。しかし、そんな彼女の目線の先で光り輝いていたのは、いつも辛辣な言葉をかけてくるりつ子(菊地凛子)だった。
第9週において最も印象的だったのは、迷うスズ子と迷わないりつ子が比較されるように描かれていたことだ。警察の言いなりにならざるを得ずに、身動きが取れなくなったスズ子に対して、楽劇団の前で“贅沢反対”運動をする婦人らを物ともせず、何度も警察の御用になっているりつ子。「これは私の戦闘服なの」と毅然とした態度で、自分のために、自分の歌を歌い続ける彼女はカッコよかった。