『たとえあなたを忘れても』美璃に届いた空の告白 切ない想い抱えた沙菜の物語が終幕へ

 自分のルーツを何も知らずに生きる道と、過去の傷と対峙しながら歩む道。それぞれ異なる種類の痛みを伴うとわかっていながら、それでも“どちらがより苦しいのか”を考えてしまう。『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第5話は、この2つのテーマの対比に静かに光を当てていた。これまでも失われた過去と現在の自己との間で揺れ動く心の軌跡を優しく、時には切なく描き出してきた本作だが、今回はより一層、空(萩原利久)の忘れられた過去を静かに紐解く。

 美璃(堀田真由)と理佐子(檀れい)の家を訪れた空は、束の間の幸せを味わうも、突然のフラッシュバックに包まれ、キッチンカーとともに姿を消す。8年前、空はある壮絶な体験から記憶を失っていた。

 今回のエピソードでは、失踪した空を探すという共通の目的が、美璃と沙菜(岡田結実)のシスターフッドな絆の芽生えを感じさせる展開も。美璃は自分の軽率な行動を後悔しつつも、何よりも優先すべきは空を見つけ出すことと決意する。空が訪れそうな場所を探し回るべく、子供の頃から空と多くの時間を過ごしてきた沙菜の記憶に頼ることに。

 高校時代から空に想いを寄せ、彼の隣人として常に近くにいた沙菜。空の家から漏れ聞こえる男性の怒声に耳を傾けていた彼女は、空の家庭が抱える問題を知っていた。時が経ち、美璃に対して沙菜が打ち明けたのは、「昔は優しかった空の父親。でも、父の死を深く感じすぎた空は、その衝撃で記憶を失ったのかもしれない」という、空の記憶喪失についての真実だった。

 記憶が戻る日が訪れたとしても、その先にある空の心の内は、誰にも解き明かすことができない。この不確実な未来が、彼を救いたいと切望してきた沙菜の心情を一層切なく際立たせているように感じられた。

 ある時、沙菜は、記憶を失った空に対して、2人の過去の関係に関して嘘をついてしまう。彼女は空と交際していたと偽るが、空は「ごめん、なんか違うっていうか。そういう気持ちを思い出せへん」と、心から謝罪する。友情と恋愛の間の微妙な境界線が何とも歯痒い。沙菜は自分の嘘を打ち明けるが、それでも空は彼女に「沙菜がいてくれんと俺、何もできひん」と告げ、2人は“友達”としての関係を続けることに決めるのだった。過去回で、美璃に友達として関係を続けることを勧めた沙菜の心の中には、自分には届かない関係を空と築いていた、美璃へのわずかな嫉妬があったのかもしれない。

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