『きのう何食べた?』を特別な一作にしている“老い”の描き方 “奇跡”に満ちた日常の尊さ

 小日向さんと航、シロさんとケンジ。4人で囲む食卓の場面では軽やかな会話が飛び交う。ジルベールこと航が毒を吐き、小日向さんがそれをフォローしシロさんとケンジは少し困りながら笑う。そんなシーンにもどこか切なさを感じるのは、4人がそれぞれどうにもならないものを背負いながらテーブルについているのがわかるから。

 まるで年上の恋人の愛情を試すようにどうしようもない我儘を口にする航は会社を経営する父親からとっくに見捨てられているし、小日向も母からの電話を除き実家とはほぼ没交渉。おそらく家族と恋人・航ついて話せてはいない。前に進もうとしているシロさんの両親も、息子の恋人・ケンジの存在すべてを受け入れているわけではない。唯一、職場の仲間や顧客にも同性愛者であることをオープンにし、その話ができるのはケンジだが、彼も年老いた母を含めた家族との付き合いが濃いとは言い難い。そのことを誰もシリアスに語りはしないけれど、それぞれの胸の中にはつねに小さな澱がある。

 だから、シロさんが大家さんからの「筧さんの同居人に男性の方いらっしゃいますよね。その方、もしかして筧さんの恋人ですか?」との問いに「ええ、私の恋人です」とスラっと答え、大家さんもナチュラルに「ああ、やっぱりそうですか」と返したやり取りに救われた気がした。これまでケンジとの関係をオープンにすることにためらいもあったシロさんが、住む家に関わる人物にふたりのことを話せたのは、彼がこの先の人生もずっとケンジと生きていくとの優しい決意表明だと感じたから。

 出会ったふたりの“恋愛”が“生活”へと変化するさまを描いたドラマはこれまでも多々存在したが、そこに“老い”が加えられた作品はほぼなかった気がする。シロさんとケンジが何気ない、でも“奇跡”に満ちた日々を紡ぎながら歳を重ねていくさまを描く『きのう何食べた?』は、わたしたちに日常の尊さをそっと提示し、当たり前のことがじつは当たり前ではないのだとさりげなく教えてくれる。

 今日もシロさんとケンジはキッチンに立ち、共に食卓を囲む。食べることはいつか終わりが来るその日に向かい、今を生きるためにもっとも大切な行為だから。

■放送情報
ドラマ24『きのう何食べた? season2』
テレビ東京系にて、毎週金曜深24:12~放送
Lemino、U-NEXTにて、各話放送終了後から第1話〜最新話見放題配信
出演:西島秀俊、内野聖陽、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、田中美佐子、田山涼成、梶芽衣子
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、松本佳奈、平田大輔
音楽:福島節、澤田かおり
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:阿部真士(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
企画監修:神田祐介
制作:テレビ東京、avex pictures
制作協力:オフィス・シロウズ
製作著作:「きのう何食べた? season2」製作委員会
©︎「きのう何食べた? season2」製作委員会 ©︎よしながふみ/講談社
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta2/
公式X(旧Twitter):@tx_nanitabe
公式Instagram:@movie_nanitabe

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