『隣の男はよく食べる』が描く多様な“欲求” 倉科カナ&菊池風磨の微笑ましいやり取りも

『隣の男はよく食べる』が描く多様な“欲求”

 倉科カナと菊池風磨のW主演にて、4月期にテレビ東京系で放送されたドラマ『隣の男はよく食べる』が、Blu-ray&DVD-BOXとなって帰ってくる。同BOXには、放送された全12話はもちろん、豪華特典映像を収録。本稿では、本作の見どころについて振り返るとともに、特典映像の詳細について紹介したい。

 台湾出張前夜に自宅の鍵を紛失し、困り果てた麻紀(倉科カナ)は、これまで挨拶程度しか交わしたことがなかった隣人・蒼太(菊池風磨)の協力を得て、どうにかピンチを回避する。後日、お礼として手料理を差し入れると、「食べずに捨てられてもいいや」という麻紀の思いとは裏腹に、蒼太は大喜び。麻紀もまた「おいしい」と頬張る蒼太の存在に癒され、ときめき、2人の距離は縮まっていく。

 本作は一見、夢のような恋の物語。言わずもがな主演の2人は美しいし、倉科演じる麻紀の不器用さや一生懸命さは実にかわいく、菊池演じる蒼太は観る者を容赦なくキュンとさせる。やきもきするシーンは多々あれど、きっとハッピーエンドを迎えるだろうことも予想がつく。しかし、疲れることの多い今の時代。「気楽に見て癒される」というのは、本作の大きな魅力だ。そして、麻紀の等身大の悩みは、特に同年代の女性や、暮らしの中でふいに孤独を感じる人々にとって、きっと共感できるもの。本作はまごうことなきラブストーリーだが、恋愛だけが全てではないとも受け取れる作品である。

 仕事に打ち込み、気づけば彼氏いない歴10年の麻紀。35歳、将来について考えないこともない。恋愛したいわけでも、したくないわけでも、今の暮らしに不満があるわけでもないが、ふと寂しさを感じる夜や、誰かに褒められたくなるときはある。麻紀にとって料理は、自分を癒し活気づける趣味であり特技。彼女の性格や暮らしを投影するものでもある。

 そんな手料理を「おいしい」と褒められること、料理に施した些細な工夫に気付き喜ばれることーーそれは、ひいては麻紀そのものを肯定され、求められることと同じくであり、ややおおげさな言葉かもしれないが、承認されることだ。振り返ると、制作発表において菊池は、本作で描かれる欲求について話していた。つまり、食の欲求と性の欲求ということだが、本作ではそうした生理的欲求よりもさらに高次のものーー「承認」の欲求と実現もまた、キーになっているように思う。

 ただ、他者に認められることだけが承認ではない。本作では麻紀が、恋や仕事に悩みながらも自分の生き方と向き合い、自分で自分の人生を選び取る姿が描かれている。それは、自分の好きな自分でいること、自分の幸せを自分で決めること、自分を幸せにすること、そうした高位の承認。その大切さを、本作はさりげなく気付かせてくれる。

 そして、食べることは生きること。「生命の維持」という観点だけではなく、人生という限られた時間において、食事が占める割合を見てもその通りだ。多くの人間は1日に3回、健康に80年生きるとすれば8万回以上、食事をする(もちろん、生まれてからの数年は主体的な行為ではないのだが...…)。幸せな食事は、人生の多くの時間を「幸せ」の記憶で満たす。意外と、シンプルな構造だ。

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