『ザ・クリエイター』ギャレス・エドワーズ監督インタビュー “映画の未来”への懸念と希望

「映画は人間が生きる上で必要なものの一部」

ーー今回、個人的に気になったのは音楽でした。“ハンス・ジマーっぽくない”彼の劇伴も素晴らしかったですが、レディオヘッドの「Everything In Its Right Place」が使われていたのがとても印象的でした。

エドワーズ:僕自身、脚本を書くのが大嫌いで、脚本の執筆は世の中における最悪の宿題みたいな作業だと思っているんですが、そんな僕が唯一脚本を書ける方法が、素敵なホテルに缶詰めになることなんです。今回はタイのリゾートホテルを選びました。ちなみに、あまりに気に入ったので、オープニングシーンにも出てきます(笑)。「Everything In Its Right Place」が流れるシーンの脚本は、レディオヘッドの楽曲を聴きながら、ホテルの近くのビーチを歩いて考えていました。ただ当時は「Everything In Its Right Place」ではなく、「Burn the Witch」を聴いてイメージしていました。実際にどの曲を使うかは、他のアーティストの楽曲、たとえばレッド・ツェッペリンの楽曲の可能性も探ったりしていたんですが、ミュージックスーパーバイザーのゲイブ(・ヒルファー)がレディオヘッドの「Everything In Its Right Place」を提案してくれました。実際に映像にはめてみると、それまでの『地獄の黙示録』のようなエネルギッシュな雰囲気から、これから自分たちが恐怖を体験するかもしれないというような思慮深い雰囲気になって、フィーリングを一気に変えてくれました。それで結果的に「Everything In Its Right Place」を使うことになったんです。トム・ヨークが実際にこの映画を観てくれているかどうかはわかりませんが、僕が映画のインスピレーションを得るときに聴いている音楽はレディオヘッドなんです。トム・ヨークは僕にとってのヒーローなので、ぜひこの映画も観てくれることを願っています。

ーー映画で描かれている人間とAIの対立は奇しくもタイムリーなテーマとなりました。生成AIの利用はハリウッドにおいてもストライキの争点になっていますが、ハリウッド、そして映画の未来はどうなっていくと思いますか?

エドワーズ:いまの状況は、自分が映画業界に入りたいと思ったときとはまったく違うものです。特にいまは、配信という新しいビジネスモデル、新型コロナウイルスのパンデミック、そしてストライキという3つの大きな要素が同時多発的に起きてしまっている状況だと思います。配信に関しては、自分は常にこう思っています。新しいサッカーのリーグを作って、どんどん選手をスカウトして、集まった選手たちはピッチの上で実際にプレーをしているんだけど、気づいたら観客は誰もいなかった、と。選手たちは「観客がいないけど大丈夫?」と審判に聞くけれど、返ってくるのは「大丈夫。プレーを続けてください」という言葉。ゴールを決めたら喜びはするんだけど、よく見たらスコアボードがない。「点数がわからないけど、これで大丈夫なんですか?」と審判に聞くと、また「大丈夫。プレーを続けてください」という言葉が返ってくる。だから選手たちは、なぜここでプレーしているのかと疑問に思い始めてくる。僕にとって配信というものは、まるでそういう感じなんですよね。一方で、映画というものは、見知らぬ人たちと同じ場所に集まって同じ感情を体験することだと思っています。みんなで焚き火を囲みながら話をするというような、原始的な体験が映画の醍醐味だと思うんですよね。もちろん僕自身も配信で映画を観ることもありますが、それによって“映画を観たい”という気持ちが満たされるわけではありません。体験としては別のものだと思います。一方で、こういった業界的な変化を一番最初に乗り越えていくのが音楽だと思っています。

ーーどういうことですか?

エドワーズ:音楽業界でいま最も力があるのが“興行”なんですよね。その事実を心強く感じています。音楽におけるライブは、先ほど言ったようなみんなが集まって同じものを共有する原始的な体験でもあるわけなので、映画も同じように、映画館に人が戻っていくことを期待しています。僕にとって、映画館で映画を観ることは、人間が生きる上で必要なものの一部です。いまは配信とコロナとストライキのトリプルコンボで苦しい状況が続いていますが、これが一瞬の闇であることを願っています。どうなってしまうのかは僕自身もわからないけれど、もしこの状態が続いてしまうのであれば、僕は映画を作りたいと思わなくなってしまうかもしれません。なので以前のような活気のある状態に早く戻ることを願っています。

■公開情報
『ザ・クリエイター/創造者』
全国公開中
監督・脚本:ギャレス・エドワーズ
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙、ジェンマ・チャン、アリソン・ジャネイ、マデリン・ユナ・ヴォイルズ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios

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