『大奥』“怪物”仲間由紀恵の狂気があらわに “世を変えたい”という志が家斉を変える

 家斉は優しい。優しすぎるからこそ、あまりに辛い光景に耐えきれずその記憶を自分の中から消してしまったのだろう。けれど、当時の恐怖と自分のせいで武女が酷い目に遭ってしまったという後悔は彼の心の中に植え付けられ、身動きが取れなくなってしまったのではないだろうか。でも家斉が大人しくしていたからといって、治済の狂気が治るわけではない。家斉と茂姫の配慮で平和が保たれていた大奥に退屈を覚えた治済は余興としてその秩序を乱したのである。

 また女性を守れなかったことと、自分に人痘接種を施してくれた青沼(村雨辰剛)が死罪になったという事実すら今まで知らなかったことへの後悔から、家斉が訪ねたのは元大奥の右筆助・黒木だ。黒木は軽症の赤面疱瘡を探す旅から帰ってきたばかり。そんな彼に人痘接種再開の協力を依頼する。

「私は世を変えたいのだ! 男も女と同じ力を持てる。男とて女を守れる。そんな世に、変えたいのだ!」

 最初は原作のイメージそのままに、生気のない家斉の顔を表現していた中村。だが、ラストの場面では途端に人としての熱を帯び、その瞳には覚悟が滲む。彼が変わったのは、世を変えたいという“志”を得たからだ。春日局や久通、定信にはあって、治済にはなかった“志”。それは“他の者を思う気持ち”と言い換えてもいいだろう。かつて、後継者選びに悩む吉宗に久通は「どうか、周りの者に報いたい。ひいては天下万民に報いたい。そのために上に立ち、命とて賭けよう。さようなお心をお持ちの方をお選びくださいませ」と言った。

 人の上に立つのは他者を思いやり、そのために動ける人間でなければならない。本作が今を生きる私たちに訴えかける大事なメッセージの一つである。

■放送情報
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)
【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

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